ダウンロード違法化の動き 2007年12月20日-24日

MIAUによるシンポジウム開催と、出席者の動き

ダウンロード違法化を受けて緊急メッセージを発表していたインターネット先進ユーザーの会 (MIAU) は、26日に緊急シンポジウムを開催することを発表しました。参加者は津田大介氏、小寺信良氏、池田信夫氏、斉藤賢爾氏、小倉秀夫氏などの予定です。現在予定されている参加者のうち、津田、小寺、池田、小倉氏についてはダウンロード違法化に反対する意見を表明していますので(斉藤氏の主張は調査しきれませんでした)、当日はダウンロード違法化反対の意見がピーアールされることと思われます。

池田信夫

上記参加者のうち、池田信夫氏は19日の時点で、勝負は国会の場に移ったとして、情報通信と一体化した著作権政策を民主党が打ち出すべきだと主張しています*1。その中では、著作権行政を文化庁が所管しているために通信を所管する総務省などと不統一が生まれるとして、著作権法文化庁が所管することも考え直すべきだと主張しています。

同様の主張は今年3月、知的財産戦略本部が知的財産推進計画を見直すときに行なったパブリックコメントにおいて、アップルジャパン社が提出した意見にも重なるところがあります。現在、その意見は取り下げられていますが*2、内容は著作権法32条第2項に基づきアップルが文化庁と対決姿勢 : ニュースな待合室に転載されています。「文化庁著作権課に依る一方的な行政運営には理解不能である。(……)もはや公平公正な著作権行政を運営する適切な省庁とは言い難く、速やかに著作権行政を他の省庁に移管することを強く望む。」という強く文化庁著作権課を非難する論調は、パブリックコメント公表当時多くの話題を集めました。

小倉秀夫

方針が明らかになって以来、積極的にロビー活動の準備を呼びかけている弁護士の小倉秀夫氏は、カナダで著作権法の改正案が、国民の反対により見送られたことを報じています。一方で、今回のダウンロード違法化のねらいについて以前ダウンロード違法化は将来の刑事罰化を視野に入れていると考察*3、「権利者は現状において違法アップロード者の情報開示請求や訴訟などをほとんど行っていないのに、今回ダウンロードを違法化してどのような活動を行なうつもりかという疑問を呈しています。

津田大介

津田大介氏は、インターネットユーザーの間には「インターネット発祥のものはみな無料であるべき」としてそれで利益を得ようとするものすべてを批判する「嫌儲」という価値観が広まっており、こういった考え方が既存の権利者と一枚岩でインターネットユーザーが相対していけない大きな原因になっている、とTwitterで指摘しました。

MIAU批判と内部体制の変化

MIAUがダウンロード違法化に反対する立場からこれまで活動してきたにもかかわらず、文化庁がダウンロード違法化の方針を決めたことについて、「斬込隊長BLOG」では、「MIAUの失敗」と位置づけ、その原因を、組織の立ち上げがパブリックコメント直前と遅かったこと、インターネットユーザーの権利を過剰に主張したこと、同じくダウンロード違法化に反対する他の団体との連携が取れなかったことの3点にあると分析しています*4。その上で、小倉秀夫氏が進めようとしているロビー活動にも言及しています。

一方、著書「インターネットの法と慣習」で知られ、MIAUの活動にもかかわってきた法政大学准教授の白田秀彰氏は、自身のサイトで、MIAU大感謝祭が盛り上がらなかったとの認識から、MIAUでの活動を休止し、ロージナ茶会に専念すると発表しました。それと同時に、MIAUの今後の活動には協力するよう呼びかけ、インターネットユーザーが白票でもいいから投票に行くことが重要であるという「白日作戦」を実行することも提唱しました。

文化庁の配付資料と反応

私的録音録画小委員会でダウンロード違法化の方針が示された際に文化庁が委員に配布したペーパーが、20日になってITmediaに掲載されました。

これに対して、各所で反応がありました。大きなところで、「無名の一知財政策ウォッチャーの独言」では、文化庁がダウンロード違法化を「国際潮流」としたことについて、悪辣な欺瞞だとして各国の状況について語っています。同サイトでは、小倉秀夫氏の呼びかけに応じて、政府が新政策の説明をする際に使うのと同様のA4版横サイズ5枚の「ダウンロード違法化問題に関する著作権フリー資料」も公開しています。

また、文化庁では将来的にDRMが強化されれば私的録音録画補償金は廃止になるとした提案を行なってもいますが、これについて「雑記帳」では、厳格にコンテンツを管理して課金管理までを行なうシステムを、ハイパーリンクの生みの親テッド=ネルソンの提唱したザナドゥ計画になぞらえ、ザナドゥ計画が実現に至ってない現状で、文化庁は日本版ザナドゥのシステムを構築するつもりかと、実現性を危ぶんでいます。

文化庁パブリックコメントの多数意見を考慮しない形でダウンロード違法化を進めていることについて、「Fraternity7」では、昨年11月に朝日新聞が報道した内容を元に、政府の知的財産戦略本部ですでにダウンロード違法化が既定路線となっており、文化庁でそれを覆すことはできない状況にあるのではないか、と推測しています*5

ユーザー意識の向上が欠かせない、とする声

ダウンロードを違法化する動きがそもそも生じたのは、違法にアップロードされた著作物をダウンロードすることに、全く罪悪感を覚えないユーザーが多数いることに原因があって、この状況が改善されなければダウンロード違法化もやむを得ない、とする声は引き続き各所から上がっています。「バーチャルネット思想アイドルやえ十四歳」では、ダウンロード違法化に反対する声を「盗っ人猛々しい」と批判し、「『万引きの何が悪い』と言っているのとそう変わらない」と結論づけています。good2ndの日記でも、これまでインターネットユーザーは著作権者の権利を踏みにじるサービスを賞賛してきており、いまさらダウンロード違法化を非難しても説得力がない、と述べ、中間業者の搾取を問題視しても、中間業者にもクリエーターにも利益が行かないような形で著作物を消費して良いわけではない、と、ダウンロード違法化に無原則に反対する動きを牽制しています。同様の主張が、北の大地から送る物欲日記でも展開されています。

一般に、著作権に対して人はどのような意識を持っているのかについて、「メモ帳日記」の記事に「チャレンジする東大法科大学院生―社会科学としての家族法・知的財産法の探究」という書籍中の調査結果の紹介がありますが、ここでも特に若者が著作権を現行著作権法よりも緩くとらえている結果が示されています。おりしも、日本レコード協会コンピュータソフトウェア著作権協会日本国際映画著作権協会が共同で実施したアンケートによれば、ファイル交換ソフトの利用者が急増しているという報道があります。

それに対して、どのようなユーザーのあり方が求められるのか。「P2Pとかその辺のお話」では、既存メディアの不買運動とともに、新しい形で著作物を提供するメディアで魅力的なものを積極的に利用して、ここに新たなビジネスチャンスがあるという意志を伝えていくことが重要だという見解を発表しました。「カレン次世代ビジネスリサーチ室ブログ」でも、クリエーターが食べていける方法についての言及があります。

管理者団体をただ憎むだけでは建設的な議論は行なえないという声もあります。一般に流布している「誕生会でハッピーバースデーを歌ったらJASRAC著作権料を請求された」というジョークについて、法律上そういう事実はあり得ず、法を踏まえた議論をすべきだ、というエントリーが「はてな匿名ダイアリー」にもあります。

ダウンロード違法化による萎縮効果

ダウンロード違法化は、現状の刑事罰を科さない状況ではほぼ効果がないという指摘は各所でなされていますが、これについて最も大きい影響は、ユーザーが違法かもしれないサイトを閲覧しなくなるという萎縮効果にある、とする意見は文化庁の方針発表前から少なからず存在しました*6。これについて、早稲田大学客員助教授の境真良氏は、将来的に刑事罰化されたとき、ダウンロード違法化は軽犯罪法同様に別件逮捕のための道具として利用されるおそれがあり、法を犯す人の大部分が摘発されず、一部を一罰百戒的に罰するのは、法制度自体の信頼性を揺るがせる、と危惧した上で、法制度の設計上も手続き上も、ダウンロード違法化に反対すると表明しました。

海外での取り上げられ方と、他国の著作権法との関係

インターネットにおける著作権のあり方は日本一国だけでなく国際的に影響を及ぼすはずです。しかし、これについて取り上げている海外メディアが少ないことを一戸信哉氏が指摘しています。その後、ブログ言論界でのさまざまな事象を紹介する英語のサイト「Global Voices Online」に取り上げられています。

先に「無名の一知財政策ウォッチャーの独言」で国際潮流に関する意見を採り上げました。アメリカでは一般に公正利用(フェアユース)が条文上も判例上も確立しており、著作権者の了解を得ることなく使える範囲が広く存在していますが*7、H大学法学部・法科研究科教員のブログ「Matimulog」では、TBSの批判のために他メディアが番組の素材を借りようとしたらこれを拒否された事件に触れ、批判という言論の自由が制約されるのであれば、著作権が制限されることも考えるべきではないか、とし、そのあり方としてフェアユースという考え方もあるのではないかとしています。

以上が20日から24日にかけての主な動きでした。なお、著作権を現行の作者の死後50年から死後70年に改める動きについて考える著作権保護期間の延長問題を考えるフォーラムは、一周年を記念するパーティーを開催すると発表しました。同会の発起人には、これまであげた中では小寺信良氏、境真良氏、白田秀彰氏、津田大介氏がいます。

*1:民主党では、川内博史議員が党内で会議を開くことを言明

*2:知的財産戦略本部パブリックコメントは、行政手続法第6章の適用を受けないとはいえ同章の規定を踏まえているものだと考えられるが、一般にパブリックコメントの結果を、公表された後に提案者が取り下げることが可能かどうかは疑問。

*3:奇しくも、これは当協会がミクシィについて調査検討した時と結論を同じくする。

*4:この分析に対する主な反応ははてなブックマーク。個人のブログで言及した例としてhttp://d.hatena.ne.jp/Sigma/20071221/p1

*5:この件について当時の段階で取り上げた他のブログに、違法サイトからのダウンロード - 著作権法

*6:方針発表後の反応としては、http://d.hatena.ne.jp/craft_kim/20071220/p1など。

*7:フェアユースを巡る最近の話題ではhttp://jp.techcrunch.com/archives/fair-use-vs-free-speech-in-the-internet-age-the-lane-hartwell-problem/など。