違法サイト調査検討結果について (The FCC Kids Zone Home Page)

当協会は、掲示板における匿名の賛同者の方からの情報提供に基づき、下記のサイトが違法サイトであるかどうかについて調査検討を行いました。その結果、当該サイトが違法サイトであるという結論には至りませんでしたのでお知らせします。

サイトの概要

サイト名称
The FCC Kids Zone Home Page
アドレス
http://www.fcc.gov/cgb/kidszone/
運営者の種類
政府機関(アメリカ合衆国

情報提供の要旨

ドラえもん」のそっくりキャラが使われており、実質的類似性の観点からは確実にアウトである。

調査検討結果と理由

The FCC Kids Zone Home Page(以下「当該サイト」という。)は、アメリカ合衆国で電気通信等を管理する政府機関であるFederal Communications Commission(連邦通信委員会)が、児童向けに公開しているサイトである。

当該サイトには、Broadbandという名のマスコットキャラクターが表示されている。情報提供者はこのBroadbandが日本において藤子・F・不二雄が発表した漫画キャラクター「ドラえもん」とそっくりである旨主張しているので、前者が後者の著作権を侵害しているか否かについて検討する。

著作物性および著作の先後について

ドラえもんは1969年に漫画として発表されており、Broadbandのイラストがサイトに登場したのは3年ほど前とされている。漫画及びイラストが著作権法上の著作物にあたることは著作権法第2条第1項第1号および第10条から明らかになっている。仮に一方が他方の著作権を侵害しているとすれば、それはBroadbandの作者がドラえもん著作権者の著作権を侵害していると考えられる。

日本の著作権法が適用されるか否かについて

違法サイトからのダウンロードを違法とするのは日本の著作権法であるから、当該サイトについて日本の法令が適用されるかどうかについて検討する。知的財産法については、一般に、侵害行為があったならばその行為が行なわれた地の法が適用されるとする属地主義が取られている。しかし、インターネットにおいては侵害行為が行なわれた地をどのように解釈するかについて、情報が発信された地とする説、情報が受信された地とする説があり、学説も実務上も一定していない*1。日本の法令では、法の適用に関する通則法第17条に不法行為によって生ずる債権の成立及び効力は、加害行為の結果が発生した地の法による。ただし、その地における結果の発生が通常予見することのできないものであったときは、加害行為が行われた地の法による。と規定されている。

では、当該サイトについて、加害行為が発生したのはどの地にあるのか。当該サイトの設置主体及び目的を考えれば、運営者がアメリカ合衆国内の児童を想定していたことは明白であるが、それが日本で閲覧されることまでを予見していたと考えられるかどうかについては明らかではない。とすると、本件については、日本の著作権法が適用される可能性と、アメリカ合衆国著作権法が適用される可能性があることになる。

著作権侵害の様態について

Broadbandとドラえもんの図柄は、一方が他方の複製と言えるまで酷似しているとは認められない。このことから、仮に著作権侵害があるのであれば、それはBroadbandがドラえもんの二次的著作物である場合に限られる。二次的著作物は、著作権法第1条第1項第11号に規定があり、「著作物を(……)翻案することにより創作した著作物をいう。」とあり、著作物を翻案する権利は著作者が専有することが同法第27条に定められている。一般に、ある著作物を二次的著作物と主張するためには、原著作物に依拠して創作されたものであることの証明が求められる。本件について、著作権(および翻案権)を有する小学館では、依拠の確実な証拠があるわけでなく、独立別個にBroadbandが創作された可能性があることを示唆しており、当該サイトの運営者では本件について見解を表明していない*2。このことから、Broadbandがドラえもんの二次的著作物であるかどうかについてはいまだ明らかではない。

まとめ

以上の調査検討内容をまとめると、下記のとおりとなる。すなわち、当該サイトに掲載されているBroadbandについて、Broadbandの作者がドラえもん著作権者の著作権を侵害している可能性はあるものの、ダウンロードを違法化する日本の著作権法が適用されるかどうかについて疑問の余地があること、侵害をしているとすれば翻案権を侵害する二次的著作物である可能性があるが、確実に侵害していることが確認できないことなどから、当該サイトは現時点において違法サイトであるとは認められない。

補足

本件については、法令の適用地および二次的著作物であるか否かについてより詳細に調査検討して結論を出すべきという立場もあり得るが、ある事項についての法令の解釈および事実関係の認定は、我が国においては最終的に司法以外がこれを行なうことは許されず、当協会の調査検討結果が最終的に覆される可能性があることを考慮し、より詳細な調査検討を行なうことは見送った。もとより、あるサイトを違法サイトと認定することは実質的にそのサイト運営者のインターネット上での言論の自由を著しく制約するものであり、その発動は慎重にも慎重を期すべきものであることは言うまでもない。しかし、このままでは違法サイトからのダウンロードを違法化した意義が乏しく、この点についての運用を改善しないことには、ダウンロード違法化はただインターネット上での活動を萎縮させるだけの結果に終わってしまうことが容易に予測できることから、当協会では改善の方法があるかどうかを含め、なお違法サイト認定の方法についても研究を進めていく予定である。

以上

*1:両説のメリット及びデメリットについては、田村善之『著作権法概説』567ページなど

*2:http://slashdot.jp/articles/04/12/28/1342249.shtml