緊急シンポジウム「ダウンロード違法化の是非を問う」の様子

インターネット先進ユーザーの会 (MIAU)は、本日18時30分から緊急シンポジウム「ダウンロード違法化の是非を問う」を開催しました。当協会では、シンポジウムの模様をUstreamで傍聴しましたので、その様子をお知らせします。

下記に挙げるものは当協会が聞き取った内容に基づくものであり、その正確性は担保できません。内容に対する不正確さ・誤りは当協会が責を負うべきものです。ご指摘がありましたらお知らせください。なお、これらは著作権法第40条第1項に基づき利用するものです。

シンポジウムの模様は今後YouTubeニコニコ動画にアップロードされる予定とのことです。

会場

前方にパネリスト。左から斉藤賢爾氏・池田信夫氏・小倉秀夫氏・津田大介氏・小寺信良氏・中川譲氏。

開会あいさつとシンポジウムの趣旨

小寺信良

シンポジウムは初めて開催する。わたしたちは私的録音録画小委員会の動きを受けて結成され、違法サイトからのダウンロード違法化に反対することを目的として、パブリックコメント提出をうながすなどしてきた。結果、パブリックコメントは7,500通を集め、うち8割が違法化に反対という結果に終わったが、しかしながら小委員会ではそれらを踏まえてもなおダウンロード違法化を推し進めるという。

今日集まっている方々は多くが高い問題意識を持っていることと思う。しかし、問題があることは分かっているが具体的にどこがどう問題なのかということはよく分からない、という方もいることと思う。今日は、そういった方々に分かってもらえるようなシンポジウムにしたい。

今日のシンポジウムの進め方について。まず、MIAU発起人で私的録音録画小委員会委員の津田氏から小委員会の議論の内容について説明。次に法律学の立場から弁護士の小倉氏。経済学の立場から上武大学教授で情報通信政策フォーラム代表の池田氏。技術的立場から慶應大学講師の斉藤氏に話してもらう。そのあと全員でパネルディスカッションをし、会場からの質疑応答を受けるという形にしたい。

各パネリストの発表

津田大介

なぜ、どうしてこういう風になっているのか、という立場から話をしたい。

そもそも、コンピュータネットワークは、コピーにコピーを繰り返す形で発達するもので、今までのアイデアと相容れない。その点が現行の著作権法とバッティングしてきた。これに対応する形で著作権法はここ10年改正されてきた。具体的には、1997年に送信可能化権が設定され、99年にコピーガードを回避しての複製が禁止された。2004年には記憶している人も多いと思うがレコードの輸入権が設定され、2006年にはIPマルチキャストについての規定が整備された。また、罰則も10年以下の懲役又は個人なら2,000万円以下の罰金と、世界的に見ても類を見ない強い形に強化された。このような中、2007年にダウンロード違法化が小委員会で決められようとしている。

そもそもなぜ違法化しなくてはいけないのか。文化庁は理由として3点を挙げている。一つは、現状がベルヌ条約の3条件*1に抵触するということ、二つ目は「違法なものからのダウンロードは違法」という考えは、国民に理解されやすいこと、三つ目が法的に違法であると規定することで萎縮効果を見込めるということである。

小委員会は2006年4月に第1回が開催されたが、その際に事務局として当時の甲野著作権課長が話した際にすでに「30条についても話し合ってほしい」という旨の発言があった。具体的には第3回の時に日本レコード協会の生野氏から第30条改正の要望があった。そのまま第7回で第30条から除外するという方針が出て*2、現在に至っている。自分は利用者の立場から主にものを言っているので、利用者保護はどうするのかという点を論点に挙げたりしたが、利用者保護のためには(1)「情を知って」の文言を加えること、(2)経済的不利益が顕在化している録音録画に限り、テキストなどは対象外とすること、(3)刑事罰の対象とはしないこと、ただし民事訴訟の対象にはなりうる。という措置をとるとされた。その後パブリックコメントの内容については小寺氏からあったので省略する。

まとめると、論点としては次のようになる。違法な録音録画を減らしたいという目的に対して、違法ダウンロードの違法化という立法がもたらすメリット・デメリットのバランスがどうなっているかという点が不明である。また、インターネットはいろいろなところで境界があいまいである。いたずらな萎縮効果を呼ぶことになるのではないか。経済的に言えば、違法サイトからのダウンロードを幇助する可能性のあるネットサービスが一切できなくなり、国際的競争でも出遅れる。また、インターネットという広い範囲に影響が出る事項について、小委員会という狭いところで決めるという手続きの問題もある。本来ならこういう問題については賛否両方の意見を持つ人を呼ぶべきだが、この問題については賛成の意見を示している人が大変少ない。そこで、各分野の専門家に各分野の視点からこの問題について話してもらうという形にした。

小倉秀夫

ダウンロード違法化について法律的観点からお話しする*3

現行法でも、無許諾のアップロードは公衆送信権送信可能化権を害している。これに対して権利を持つ者は、(1)アップロードした人に損害賠償請求をする、(2)刑事告訴する、(3)サーバ業者に送信防止措置の請求をする、といったことができる。すなわち、現行法でも無許諾のアップロードについては対策が取られている。

これに対して、権利者は「これではなかなか難しいからダウンロードを取り締まる」という。しかし、アップロードした人を特定するのは難しいのか。アップロードした人のファイルその他の情報は、ダウンロードする人のために公開されている。このため、権利者がダウンロードしてみてチェックすることが可能である。また、匿名であってもプロバイダ責任制限法に基づき発信者情報の紹介が可能である。アップローダーのようなサイトであっても、アップローダーのあるサイトに請求し、その後そのアクセスのあったプロバイダに請求するという2段階で基本的にアップロードした人の情報が手にはいる。近年違法着うたサイトが増加していると言うが、これは海外にはほとんど無いので、この手順に海外のサイトが関係してくることはほとんど無い。また、携帯ユーザーは携帯電話不正利用防止法に基づき携帯電話キャリアがある程度の情報を把握しているはずである。このように、現状でもアップロードした人を特定して前述のような対策を行なうことは可能である。

しかし、実際にはアップローダーに対抗することはあまり行なわれていない。なぜかというと、このように容易にもかかわらず権利者が権利行使をしていないからである。年間1件から2件程度しか権利行使した話を聞かない。アメリカやドイツではどうなっているかというと、数千から数万件のオーダーで権利を行使しているにもかかわらずである。Winnyにしても、実際にWinnyで違法にアップロードしたことにより逮捕されたのは2人しかいないはずだ*4

また、アップローダー側にもアップローダーなりの正当性がある。まず、代替の方法がないことが挙げられる。見たいユーザーはYouTubeでしか、あるいはWinny経由でしか手に入れられないからそれらを使って視聴する。また、アップローダーをやっつけることが法律的にできると言っても、それに対して国民のコンセンサスがないのではないか。特に無償かつ非営利のアップロードについては、悪いと思っている人は少ないはずである。人間、罪悪感を感じることをしようとしてもなかなかできない。「ここでこいつを殺せば誰にもバレない」と思っても、実際に罪悪感があればこそ、実行に移せる人は少ない。

また、ダウンロードが違法化されたときに、実際にはどのように取り締まることになるか。おとりを使おうにも、おとりとして権利者がアップロードしたファイルは、権利者がアップロードしているのだから合法であり、おとりにならない。そうすると、違法にダウンロードしていそうなユーザーの家に行って、民事訴訟前の証拠保全手続としてハードディスクの内容をすべてコピーするようなことになる。当然、ハードディスクには個人的な内容もたくさん入っている。ダウンロードが違法化されれば、権利者に対してわたしたちのプライバシーがゼロになるということになってしまう。「そんなプライバシーを暴くようなことはしない」というのであれば違法なダウンロードを実際に取り締まることはできず、法改正した意味が無くなってしまう。また、「しない」と権利者が言ったとしても、それを信じる理由がない。

明示的に許諾のない物をアップロードすることを全面的に禁止しようとすればそれは表現の自由の著しい制限になる。また、適法な物だけをアップロードしているサイトに適法なマークを付けるという方法は、マークの実効性に疑問が残るし、知る権利を制限することにもなりかねない。大部分の海外のサイトはマークを付けないであろうから、ひいては日本が情報鎖国の状態になってしまう可能性もある。

著作権法の位置づけの点から言えば、従来は業者保護のための法制だったのが、この改正によって権利者が「知るべき情報」とそれ以外を自由にコントロールする「情報統制法」になってしまう可能性もある。

池田信夫

法律家ではないので、経済的視点から述べる。特に「日本経済にとっての意味」という点から話したい。

権利者は「経済的被害がある」というが、それは権利者にとっての経済的被害であって、日本経済にとって被害があることにはならない。著作権の50年から70年への延長問題の時にも感じたことだが、権利者のこれらの発言はすべてある種の固定観念から出ているのではないだろうか。

権利者は「経済的不利益」、経済学的にいえば機会損失についての主張をする。しかし、それについて明確に数字を挙げたものは、JASRACが昨年根拠不明のまま挙げた100億円という主張くらいしかない。実際のところ、被害はあるのだろうが、それと同時にYouTubeを見てから購入したなどという形での便益も存在するはずである。この便益をB、損失をC*5としたときに、BとCとのバランスが不明である。話は少しそれるが、JASRACがテレビ局に音楽を使わせるときの使用料はただに近いくらい安い。これは、テレビで流されることが宣伝になると考えてのことだ。このようにBとCのバランスはメディアの種類によっても違う。これについての議論がなされていない。

これにプラスして、消費者の効用というものがあるが、これが今までの議論では抜け落ちている。たとえば、昨日放送されたテレビ番組を見逃したのでYouTubeで探して観たとする。こういう場合には観られてもテレビ局は何の損もしておらず、消費者がプラスになるだけである。

ファイル共有ソフトなどによるBとCとのバランスについてがっちり文句なしの研究、というものは少ない。今年Oberholzer-Gee and Strumpfによる研究が由緒ある経済誌に掲載された。これによれば、ファイル共有ソフトによるBとCとのバランスはB≒Cであるとされている。便益と損失とに大きな差はないというのだ。B≒Cならば、先ほどの効用をUとすれば、B+U>Cとなるはずで、全体の効用としては、ファイル共有がある方が大きくなる。業者は、業者の利益しか見ずに損害を主張するのは当然で、政府は業者の代弁者ではないのだから全体の利益を観て判断すべきだ。

付加的論点として、ダウンロード違法化が日本経済に与える効果について述べる。すなわち、萎縮効果についてである。近年、コンプライアンス意識の高まりで企業は対策に多額の出費を強いられた。今回の措置がなされれば、企業では違法の可能性があるサイトをすべて禁止するような措置をとることになるだろう。厳密に言えば、WWWという仕組み自体が違法ということになってしまうのだから。このようにいたずらな萎縮をさせることで日本経済が被る損失はいくらぐらいか。10年前に影も形もなかったグーグルがいまや時価総額で20兆円に成長した。これは日本の著作権法下ではなしえなかったサービスである。今回のダウンロード違法化は新たなビジネスの芽を摘むことになり、経済へのダメージは数兆円の規模になるのではないかと考える。

斉藤賢爾氏

ソフトウェア技術の見地からお話しする。初めに結論を言うと、今回の措置は

  1. より自由な権利者とより不自由な権利者を生み、
  2. 大手の権利者とそうでない権利者との格差が広がるもの

で、結果としてインターネットの自由度が狭まるものと考えている。なお、この権利者というのは著作権を有している者という意味ではなく、たとえばわたしたちも私的録音録画をする権利を有している権利者であり、そういった意味で用いている。

まず大前提として、情報は複製されることで初めて伝わる。また、情報は伝わることによって初めて価値を生む。これらから言えることは、情報は複製されることで初めて価値を生むということである。ダウンロード違法化は、情報の価値を制限することになる。

また、デジタル化された情報について言えば、

  1. ストリーミングとダウンロードは技術的に区別できない
  2. 録音・録画とそれ以外は技術的に区別できない
  3. 「情を知って」か否かは技術的に区別できない

という3点が考えられる。

1.について、技術は常に法に先行している。たとえば、ダウンロードを違法にすると決まったあと、私がすべてのダウンロードをストリーミングに変える技術を開発したとする。すると、将来的にストリーミングも違法になるのではないだろうか。私は自由度を増やすために技術を開発したのに、それが結果的にみんなの自由を制限する結果につながってしまう。ストリーミングについては、逐次的に再生され、情報が固定できないといった特徴があるが、これは受け取るパソコン内部の処理しだいである。たとえば、pdfをサイトに置いたとする。保存して全部パソコン内に入ってから開くダウンロード的な処理もできるし、プラグインがあれば1ページ目の部分を受信したところでそれを表示し、あとは随時表示していくというストリーミング的な処理も可能だ。このように、ストリーミングとダウンロードとの違いはわずかしかない。

2.について。デジタルというのはすべて0と1で表現された情報に過ぎないので、ある音声ファイルがあったときに、それを絵として見たり、文章として見たりというのは自由である。これを区別する術はない。

3.の「情を知って」については言うまでもなく技術的には無理である。疑問として、違法なアップロードがされているかどうかを著作権者が調べようとしてダウンロードしようとしたら違法なのかという点がある。先ほど小倉氏に聞いたところ、著作権者はダウンロードする権利を有しているのでダウンロードしても適法だという。では、自分の物だと思ってダウンロードしたら自分の物でなかったという場合にはどうかというと、それこそ「情を知って」ではないので適法だという。では、自分は少し音楽もやるが、「もしかしたら自分の音楽かもしれない」と思って片っ端からダウンロードしたら違法ではないのか、など、疑問点は尽きない。また、適法サイトを認定しようとすれば、現在ネットショッピングにあるように認証をすることになり、デジタル署名などのコストがかかることになるだろう。

以上が主な論点だが、冒頭に挙げたとおり「情報は複製されることで初めて価値を生む」「ダウンロード違法化は、情報の価値を制限する」というのがまとめになる。

パネルディスカッション

小寺氏

ネット上の意見として見つけたが、ダウンロード違法化のプランは昨年11月の知財本部が出した方針であり、これに文化庁は乗っかっているだけではないか、というものがある*6。また、18日の小委員会では文化庁が「DRMを完全に付ける代わりに30条の私的複製をなくす」というロードマップを発表したが、このロードマップは、いわゆる現在の私的複製の代わりに、アメリカで言うフェアユースの規定を導入すると言うことになるのか。法律の視点から小倉氏にお聞きしたい。

小倉氏

文化庁のいうDRMというのはすべて当事者間の契約にするということであるから、フェアユースの導入ということにはならないと思う。ただ、完全なDRMというのは存在し得ず、DRMの代わりに私的複製廃止という構想は土台無理なものだと思う。

小寺氏

次に、政治的視点から、現在のコンテンツ行政について、文化庁の所管する著作権法総務省経済産業省をも支配するような形になっているのではないかという風に見えるが、この点について池田氏にお聞きしたい。

池田氏

3年前のレコード輸入権の際には閣議決定されてから民主党が反対を始めたので結局は無理だったが、当時経済産業研究所にいた私は、霞ヶ関の中で文化庁は孤立していると感じた。当初、経済産業省は産業を振興し貿易を奨励する立場にいたから、レコード輸入権について「ダメ」といった。が、当時経済産業省のある課長が、輸入権を認める代わりに公正取引委員会に言って再販制度は廃止する、という交渉をしようとした。が、結果レコード輸入権は通り、再販制度は現状維持のままに終わった。

一番大きな問題は、著作権というのは情報通信産業ともはや一緒に考えるべき状況にあるのに、総務省経済産業省もさしおいて文化庁が独走している点にある。IPマルチキャストの際も、文化庁とそれ以外とで意見が対立した。文化庁著作権に関してこれ以上狂った政策を進めさせていいのかという疑問がある。

小寺氏

技術的視点も重要だと思うので、斉藤氏に、このDRMについて現実的かどうかお聞きしたい。

斉藤氏

大前提として、すべてのDRMというのは原理的に解読可能であるということ。特に録画や録音に関してのDRMというのは、その特性上解読できないと言うことはあり得ない。

小寺氏

法の第30条第2項は録音録画に関するものだから、DRMと引き替えになくなってもいいと思うが、第30条第1項は録音録画に限定したものではないので、DRMができても無くなってはいかんだろうと思うが、小倉氏はこの点についてどうお考えか。

小倉氏

基本的に、第30条第1項は「法は家庭に入らず」という法格言を体現したものである。だから、第1項を廃止するということは、「法が家庭に入っていく」ということになる。すなわち、「あなたのPCの使い方を開示せよ」ということになるし、手で書き写すのも複製だから「ノートの中身を見せろ」ということになるし、ドラえもんの絵描き歌を歌いながらドラえもんの絵を描くことを禁止する、ということになる。

小寺氏

自分はサイトの情報、たとえば地図などをプリントアウトして出先に持って行く、などということをするが、こういった行為についてはどうなるか。

小倉氏

サイトの情報をプリントアウトすることについては、多数説としては第30条第1項の対象だという考え方があるが、私は黙示の許諾があるという考え方に立っている。第30条第1項の対象だ、とすると当然プリントアウトはできなくなることになる。ただ、厳密に解釈すれば第30条は会社などには適用されないので、職場で資料としてサイトをプリントアウトするという行為は第30条第1項だとする解釈では現行でも違法になる。私は、サイトとして公開しているからには、印刷されても構わないという黙示の許諾があると考えている。その立場をとれば、プリントアウトは第1項が無くなってもできることになる。

小寺氏

この提案が文化庁からなされたときの小委員会の様子について、津田氏にお聞きしたい。

津田氏

この小委員会は主査*7が一番大変だったのではないかと思っている。分科会からは第30条について抜本的な見直しをするように、という力があったにもかかわらず、実際の議論は権利者側と消費者側とがお互いの主張をただ言い合うだけで、結論というものが見えなかった。そこで、「20XX年の未来」という形で、「完全なDRMの世界が来れば」という前提条件を先に出すことで権利者側を納得させるためにこのようなものを出したのだと思う。

しかし、DRMというものはたいてい破られるものである。たいていのDRMは企業が集まってフォーラムなどを結成し、そこで作られるが、うちどこかの企業がいつの間にか倒産して情報が漏れ、気づいたらDRMを回避する物が販売されているというようなソーシャルな破られ方もあるし、斉藤氏が指摘したようにテクニカルな方法での破られ方もある。マイクロソフトメディアプレーヤー10発表の時に「絶対破られないDRM」としてフォーマットを発表したが、程なく解除されて、今は11へのアップデートをうながす対策しか取れていない。DRMはそのような状況にあり、文化庁の提案は、今あげるべきものではなかったのではないか。

個人的な小委員会の感想を言えば、ストリーミングとダウンロードは違う、刑事罰は付けない、というが、これがいつまでそのままかが分からない。小委員会の中で、映画業界の人が「YouTubeニコニコ動画をとにかくなんとかしたいんだ」とポロッとこぼしたこともあって、今回のダウンロード違法化の先に、もっと厳しい世界を権利者側は求めているのではないかという気がする。川瀬室長と話をしたりすると、利用者保護の観点からこれらはこれ以上厳しくすることは絶対無いなどとは言うが、分からない。そこで池田氏にお聞きしたいが、法が最初の立法趣旨と変わっていくということはどれくらいあるものなのか。

池田氏

たいていの法は、法律の条文そのものは緩く書かれていて、政令・省令のように国会が関係しないところや、逐条解説書といった官僚が書いた書籍で細かいところが決まっていく。日本では裁判所ではなくて官僚が法の解釈を決めているのだ。だから、そんなことはいとも簡単にできるだろう。

総務省が2010年に提出を予定しているという情報通信法では、放送と通信の区別をなくそうとしている。経済産業省もこれに賛成している。なのに、文化庁だけが違うことを考えている。政府として情報通信政策が一貫していないこと、ここに一番の問題がある。

小倉氏

レコード店問題で貸与権を創設しようという際の文化庁の担当者も川瀬氏だったと思うが、その時のことを言う。貸与権創設では、著作者には貸与の禁止権を与え、レコード業者には1年間の禁止権とその後の報酬請求権を与えることにした。このときの議論で業者側は「1年間禁止といっても、実際には行使したりしないのでこれまでどおりになる」という主張をしていた。

施行してみると、まず洋楽が1年間の禁止権をまるまる行使するようになった。日本レコード協会所属のレコード会社は禁止権を行使しないが、協会に所属しないインディーズの会社も「日本レコード協会の約束したことなんて知らない」と1年間の禁止権を行使している。さらに、最近ではジャスラック以外にも貸与権を管理させることができるようになったため、ジャスラック以外に貸与権を管理させ、永久にレンタルさせないようなアーティストも登場している。このように、「権利は行使される」と考えていた方がいい。

中川譲氏

ある意味ディベートの種になるようなことを言う。70年から80年ほど前には日本には何百という数の会社があったが、それが映画法によっていくつかに統合された。これは情報統制だったといわれているが、産業法制としても機能したのではないか。すなわち、いくつかに統合されることによって映画会社は競争力を付けることができ、これが1960年代の映画黄金期を産んだのではないか。このように、保護を強化することはある意味メリットも産むのではないか、という意見はあり得ると思うのだが、これについて池田氏はどうお考えか。

池田氏

黄金期を過ぎた後の映画の衰退の様子を見れば分かる。一般に経済学の常識として、政府が保護した産業というのは最終的には衰退する。最近になって日本映画が復活してきているのも、シネコンを初めとする外資が参入して、制作から興業まで系列が行なうという仕組みが崩れたことにあるのではないか。

質疑応答

質問(一般参加者)
  1. パブリックコメントが7,500件集まったということについて、MIAUとしてはどういう風に考えているか。
  2. MIAUについて、権利者側は「違法ダウンロードを助長するけしからん団体」のように考えられている節がある。これを払拭するような方法は考えているか。たとえば、アメリカでダイハード4.0が公開されるときに、旧作をモチーフにした作品をYouTubeにアップロードしたアーティストがいて、ダイハード4.0の制作者がこれを見て気に入って、4.0の音楽を依頼したという話を聞いたが、こういう良い関係についてもっと知らせていくとか、そういうことをするつもりはないか。
小寺氏

1.について、パブコメジェネレータはログをとったりしていないし、GMailを使って、転送すればパブリックコメントが送れるような仕組みを作った人もいるらしいから、MIAUのジェネレータからどれくらいの人がパブリックコメントを出したのかは分からない。文化庁がテンプレートを使ったパブリックコメントの数に言及したりもしたことから、善し悪しは今後研究して、次回こういう機会があれば、それに生かしたい。

津田氏

まず、あのようなジェネレータを作ったのは、レコード輸入権の時に権利者側に数で勝負されたという過去があり、それを踏まえた最低限の対抗措置という意味合いがあった。批判を受けることは承知していた。数とは別に、3割の人が独自の意見を書いてくれたわけだし、違法化に賛成する意見にもテンプレートが多かったと聞いている。さらに、テンプレートを除いても反対が多かったというのもある。少なくとも、ダウンロード違法化に対する意識を向上させるきっかけになったことについては意義があると思っている。

2.についても、ある程度批判を受けることはしょうがない。方法論としても、時間的にもしょうがなかった。本当にやりたいことは、このようなシンポジウムを開いて、懸念を法律・経済・技術・文化の各側面から洗い出すことだ。すべて洗い出された上で議論して、なお改正されるというのならばやむを得ないが、今はすべての懸念が出ている状況だとは思えない。

質問(一般参加者)
  1. パブリックコメント終了後、MIAUとしてどのように活動していくか。
  2. 小倉氏のブログで国会議員へのロビー活動をしていくとあったが、どのような見込みか。
  3. 池田氏に質問。文化庁がこのように多方面に影響を及ぼして改正しようとするその源泉はどこにあると考えるか。
津田氏

年明け早々に自民党民主党の議員と会って話をしたりする予定である。国会は今大きく揉めていて、予算に関係する法案以外は出すなと各省庁が言われているという話も聞く。今国会での改正がされると決まったわけではなく、まだあきらめてはいない。やるべきことはやっていきたい。

小倉氏

年明けには会えるように話を進めている。そもそも川内議員とはレコード輸入権の際の縁で知り合いだし、山口先生は自分の住んでいる選挙区の議員であるほか、出身が同じ法曹という縁もあった。皆さんも、知り合いの国会議員……国会議員の知り合いの知り合いはアルカイダだそうだが……知り合いの国会議員がいたら、是非呼びかけてほしい。現状では自民党の部会すら通過していない。反撃のチャンスはある。

池田氏

端的に言えば外圧である。IBMがシステム364の特許権が切れる際にねじ込んだのが元ではないか。そのIBMは今やLinuxを推進したりしているから皮肉である。

民主党にはこの問題に関心を持っている人は結構いると思う。民主党は今、自民党との争点の作り方に困っているはずで、この問題は争点になりうるし、しかも若者受けする。民主党にうまく働きかけていけばいい。

質問(朝日新聞

素朴な感覚で言えば「違法なコピーを禁止して何が悪い」と思う人も多い。それに対する簡潔な反論、新聞の見出しになるようなフレーズはないか。

小寺氏

これまでのまとめも兼ねて言えば、確かに「違法なものをダウンロードするのは違法」というのはわかりやすい。キャッチフレーズの勝利であり、聞いた人はそこで思考停止してしまう。しっかり情報発信をした上で、うまいフレーズを出してこちらも対抗していきたいと思う。

一つ情報提供をしたい。これはMIAU協力会員の方がMIAUの名前を出さずにはてなでとったアンケート*8だが、「違法に配信された録音録画物をダウンロードする行為を違法とすることに、賛成ですか、反対ですか。」という質問に、賛成10.7%、反対70.0%、わからない19.3%。「小委員会の出した結論は、パブリックコメントで寄せられた意見を充分に反映したものだと思いますか」という質問に、反映している10.8%、反映していない61.9%、わからない27.2%。ネットのアンケートだから「反対」「反映していない」という意見が多いが、それでも「わからない」という意見が非常に多い。字面として、問題点がわかりにくい問題なのだと思うが、将来的に必ず問題になってくることだと思うので、今やっつけておきたい。

近いうちに中間法人として設立することを考えている。しっかりと専務理事も置いて、やっていきたい。

最後に各人から一言

斉藤氏

小さい頃の記録がどうやって残っているかというと、私が小さい頃は白黒写真だった。すこし時間がたつとカラー写真になり、ビデオになっていった。今生まれる子どもたちは、その記録がブログやYouTubeに残る時代になっていくかもしれない。このように、時代によって技術は全く変わっていく。そういう人たちが活躍できる社会を作らなくてはならない。

池田氏

総務省ですら、10年前には否定していた放送と通信の一体化を考えるようになった中で、文化庁だけが旧態依然の考え方をしている。放送と通信が一体化すべきだというのは、我々にも、文化庁を除いた霞が関にも共通したもので、文化庁だけが取り残されている。

小倉氏

川瀬室長は今回のダウンロード違法化について、立証責任は権利者にあるから、なかなか行使されないので権利者への影響は少ない、と述べた。ということは、行使されれば影響が大きいことは川瀬室長にもわかっているはずだ。そんな権利を作ろうとしていること自体が間違っている。

小寺氏

我々の運動はいわゆる消費者運動だ。昔ながらの消費者運動では不買運動をしたりするのだろうが、そのように全面的に殴り合って落としどころを探るような時代ではない。今ある魅力的なサービスを積極的に使っていくことで、声をあげて行かなくてはならない。

iTunesDRMフリーでも曲を提供している。ここにはすでにDRM私的録音録画補償金もない世界が生まれている。また、初音ミクを使ってPerfumeの曲を歌ったものがニコニコ動画に投稿されて、CDが3,000枚売れたという話もある。こういったことを紹介していくのが、違法ダウンロード推進派とされないためにも重要になっていくと思う。

MIAUのこれからについて

中川氏

ユーザーの意見を代弁する活動や、このようなシンポジウムの開催は、これまで同様に継続していく。さしあたって、1月16日にダビング10に関するシンポジウムを開催する予定である。まともな法人としての体制も整えて、政治家との折衝も行なっていきたい。

コンテンツ産業の売上というのは、経済全体から見て非常に小さい。巨大に見える角川グループも年間売上が1,300億円である。NTTが10兆円というような中、一ケタも二ケタも小さい。その小さいコンテンツ産業が、著作権法を改正していろいろなところに影響を与えるのは問題だと思っている。また、手続き上も違法化について合理的な説明をできない官僚にも問題があると思っている。これらを引き続き訴え続けていく。

*1:以下、注はすべて当協会による。ベルヌ条約第9条第2項に、権利の制限をするための条件として3点が挙げられている。(1)通常の利用を妨げないこと、(2)著作者の利益を不当に害しないこと、(3)その他特別な場合

*2:http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/bunka/gijiroku/020/06111523/001.htm

*3:http://benli.cocolog-nifty.com/benli/2007/12/post_ac76.htmlに掲載されている資料を利用

*4:Winny作者が著作権法違反の幇助として逮捕された際の正犯とされた2名。

*5:benefitとcost

*6:http://ageha909.blog121.fc2.com/blog-entry-552.htmlなどか。

*7:中山信弘東京大学教授

*8:http://q.hatena.ne.jp/1197994078