求められる著作権知識と「情を知って」との関係

さて、先に触れたとおり、当協会ではこれまで4つのサイトについて違法サイトではないかと調査検討を行なってきましたが、その過程で、違法サイトの判定、ひいてはダウンロード違法化という法改正を行なうにあたっては解決すべき課題が存在することが明らかになってきました。このカテゴリでは、違法化にあたっての課題を取り上げ、その解決方法にはどのようなものがあるのか、解決できないとしたらそれでもダウンロード違法化を進めるべきなのかという論点について述べていく予定です。

当協会が情報提供に基づいて初めて調査検討を行なったのはzfylというブログサイトでした。このサイトでは文化審議会著作権分科会私的録音録画小委員会などを傍聴して、その内容や配付資料を掲載しているサイトで、素朴な著作権意識では著作権侵害を行なっているように見えました。しかし、実際に調査検討してみると、これら配付資料は著作権法32条第2項*1に基づき適法に掲載されていると結論づけられました。このように、著作権法の関連では、現在学校で行なわれているような著作権教育では教えきれない無数の「一見適法に見えるが違法なもの」「一見違法に見えるが適法なもの」が存在します。たとえば、今回小委員会で検討されている法第30条第1項の私的複製について言えば、

  • 「個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用することを目的とする」複製は適法(○)
    • しかし、「公衆の使用に供することを目的として設置されている自動複製機器」を用いる場合は違法(×)
      • しかし、当分の間*2「専ら文書又は図画の複製に供する」自動複製機器を用いた場合は、公衆使用目的のものを使用しても適法(○)
        • しかし、これらのものを複製したあとに、個人的・家庭内・これに準ずる範囲を超えて複製して配ったり、多くの人に見せたりすると違法(×)
    • 上の議論とは別に、技術的に複製をさせないための「技術的保護手段」が施されているものを複製するのは違法(×)

と、例外が幾重にも規定されており、ある著作物を私的複製しようとしたときに、それが適法かどうかを見分ける方法は、著作権法の知識が付けば付くほど複雑になります。

今回のダウンロード違法化では、情を知って違法サイトからダウンロードすることが違法とされます。「情を知って」という語はすでに著作権法中に登場しており、たとえば、第113条では、著作権侵害によって作られたものを、「情を知って」配布したり、配布目的で所有したりすることは著作権侵害をしたのと同じであるとみなしています。この場合、「そのような法律がある、ということを知らなかったとしても法律違反の責任を逃れるわけではない*3」という法学上の原則がありますから、「こういう経緯で作られたものが著作権法違反になるとは知りませんでした」という主張はできません。それが複製*4された経緯を知っていて、それが著作権法上違法とされるものにあたっていたら、無条件に著作権法違反に問われることになるのです。上記の私的複製のチャートで言えば、

    • (ダウンロード違法化後は)音楽や映像を複製するときは、違法に複製された物をそれと知って複製したり、違法に送信可能化されたサイトやP2Pのノードからそれと知ってダウンロードすることも違法(×)

という条件が加わることになります。さらに、今の条件中の「違法に複製された」「違法に送信可能化された」を判定するためには、著作権法全体にわたる理解が必要です。端的に言えば、インターネット上で何かをダウンロードしようという人は、著作権法をしっかりマスターしていないといつ不法行為を問われるか分からない状況になるということです。「周知徹底」が果たして本当に図れるのかについては、大きな疑問が残ります。

さらにさらに言えば、複製や送信可能化が適法か違法かは、法律や事実関係を調べるだけでは絶対に分からない「権利者がその複製などにOKを出しているかどうか」という判定を経なければいけません。インターネット上で独自の著作物を公開している人の多さを考えれば、「適法マークを付ける」などという対策の実現可能性は疑わざるを得ないということは、当協会が再三再四強調してきているところです。

以上、当協会が一サイトについて調査検討を加えた結果判明した問題点について述べてみましたが、逆に言えば、この問題さえ解決すればダウンロード違法化はスムーズに可能になるということです。今後、これらの問題を解決する理想的な方法が小委員会その他から提示されることを期待します。当協会でも、引き続きそのような方法があり得るかについて研究を進めていきます。

*1:発言については、第40条第2項の適用を受けるか。

*2:昭和46年から今まで。

*3:「法の不知はこれを恕せず」

*4:実演、口述、送信可能化その他