著作物性の有無および二次的創作物の判断基準

前回は審議会情報を掲載するブログサイトに対する調査検討結果を基に、著作権法には著作物を自由に利用できる例外規定が多くあり、違法か違法でないかは著作権法全体を見渡さないと判定できないのではないか、という点について考察しました。今回は2回目の調査検討を元にして述べることにします。

当協会が情報提供に基づき2番目に考察したのはThe FCC Kids Zone Home Pageというサイトについて、特に当該サイトに掲載されているマスコットキャラクターの「Broadband」と藤子・F・不二雄氏の創作した「ドラえもん」との類似性についてでした*1

著作物性の有無

調査検討では初めに両者が著作物であるという前提からスタートしましたが、その前段として、両者は果たして著作物であるかという論点があります。仮に著作物でないのならば、全く同じものを複製しても、著作権法上は問題がないことになります。

著作権についての説明の際によく使われる「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。」という、川端康成の小説『雪国』の冒頭の一節は、それだけでは著作権の対象にはならないといわれています。また、著作権法第10条第2項では、「事実の伝達にすぎない雑報及び時事の報道は、前項第一号に掲げる著作物に該当しない。」と定め、ごく小さい短信のような新聞記事などについては著作権の対象としないことを定めています。著作権が認められるには、あくまで法第2条第1項に定める「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」という著作物の定義に当てはまらないといけないからです。

このように、同一の複製があったとしても、著作物ではないので著作物上の許諾無く自由に使える例というのはあり得ます。つまり、あるサイトにある画像や文章、音楽や映像が他の著作物に使われているものと同一だからといって、それだけで即違法サイトと認定することはできないわけです。

具体的にはどのような例があるか。雑誌が最終号を発行するときに掲載する「ご愛読ありがとうございました」というような「休刊のことば」があります。これを一冊に集めた本を出版した会社が、雑誌の出版社に訴えられたという事件がありました*2。ここでは最終的に45誌の「休刊のことば」が裁判の対象となりましたが、そのうち7つについては著作物性がないとして訴えが認められませんでした。訴えが認められなかったものの中には、下記のようにかなりの分量のものがあります。

いつも「なかよしデラックス」をご愛読いただきましてありがとうございます。「なかデラ」の愛称で15年間にわたって、みなさまのご声援をいただいてまいりましたが、この号をもちまして、ひとまず休刊させていただくこととなりました。今後は増刊「るんるん」をよりいっそう充実した雑誌に育てていきたいと考えております。「なかよし」本誌とともにご愛読くださいますようお願い申し上げます。
なかよし編集部*3 *4

一方で、俳句は大変短い文章ですが、著作物であると認められるという現状もあります。

このように、ある表現があったとして、それが著作物であると認められるか否かは簡単に決着が付く問題ではありません。今回のダウンロード違法化に関係する音楽や映像の著作物でも、住友生命サウンドロゴという、3秒くらいの音楽に創作性があるものとして作者が訴え、和解した事例*5がある一方、どんなに長くてもドレミファソラシドを単調に繰り返すだけの音楽には、おそらく著作物性は認められないでしょう*6

ただし、今回検討の対象となったドラえもんとBroadbandが著作物であるという点では、異論の余地がないでしょう。

二次的著作物

当協会の調査検討では、実際にはBroadbandが著作権侵害をしているのであれば、ドラえもんの二次的著作物にあたるはずであるとし、検討の結果、二次的著作物であるという結論は得られませんでした。二次的著作物とは、著作権法第2条第1項第11号で「著作物を(……)翻案することにより創作した著作物」と定義されています。

翻案したと言えるためには、後発作品の作者が先発作品に触れていて、その創作的な部分が後発作品にも現れていなければならない、とされています。つまり、先発作品と後発作品が「たまたま似ている」というような場合には二次的著作物とは言えず(Broadbandの例ではこの可能性を排除できないことが理由の一つになりました)、また、先発作品に触れていて似ている部分があったとしても、それが創作性のない部分であれば二次的著作物とは言えないことになります。

ここで、「見たことのある作品を、記憶だけで似せようと考えて書く」という行為について考えてみます。このような試みはテレビのバラエティ番組などで、有名なところではナンシー関氏の「記憶スケッチアカデミー」などで行なわれています。記憶スケッチアカデミーにはたまたま、ドラえもんを例にした回があるので、それを見てみることにします。ここにあげられた絵は、すべてドラえもんを知っている人がドラえもんに似せるべく描いた、つまりドラえもんの二次的著作物にしようとして描いた絵です。しかし、このうち下記のような作品は、果たして二次的著作物といえるのでしょうか。

「これらはさすがに二次的著作物ではないよ」というのであれば、上記「ドラえもんを例にした回」のうち、どれが二次的著作物で、どれが二次的著作物ではないのでしょう。これがわからなければ、わたしたちはどれが違法な複製で、どれが違法でない複製なのかわからないまま、すべてのインターネットサイトの閲覧を控えなければいけなくなります。

これらの問題を解消するためには、インターネットをする人すべてが、どれに著作物性があり、どれに著作物性がないということを判定する目、どれが二次的著作物で、どれが二次的著作物ではないかを判定する目をもったうえで、それらの基準が全員の間で一致する、という状態にならなくてはいけません。そういう状態にする方法があり得るのか、当協会は引き続き調査を進めていきます。

*1:国際司法における著作権侵害の管轄地がどこになるかという議論については今回は省く。

*2:ラストメッセージin最終号事件。東京地方裁判所判決平成7年12月18日東京地方裁判所判決平成7年12月18日

*3:「なかよし編集部」の文字は右寄せ。漢字にはすべてひらがなでルビあり。

*4:田村善之『著作権法概説』第2版17ページによる。

*5:http://xtc.bz/index.php?ID=411

*6:いや、もしかしたら現代音楽として認められる余地はあるのかもしれません。