「適法マーク」認定団体の持ちうる力の大きさ

これまで、著作物を権利者の許諾無く使えるような著作権法上の規定を適用する、あるいは著作物ではなかったり二次的著作物ではなかったりという理由で自由に他者の作品を使えるような事情がありえることについてお話ししました。そして、これらを「違法ではない」と安心して利用するためには、インターネットユーザー全員が著作権法に対する確たる知識を身につけた上で、著作物性の判断や二次的著作物の判断が全員でぶれないようになる必要がある、と述べてきました。しかし、これは大変難しい課題です。昨日はてなで実施したアンケートでは、ユーザー間の著作権に対する意識が大きく異なることが明らかになっています。

各人間で意識の統一を図れないのならば、次善の策として違法や適法を認定する機関を作り、そこが違法なり適法なりを認定するという考え方があり得ます。この考え方に基づき、当サイトは違法サイトを認定するための調査検討を行なってきました*1

ここで、当協会ではかねてから実現不可能だと主張していますが、一つの思考実験として、適法マークをサイトに付ける団体が誕生したとします。現在、私的録音録画保証金を管理する団体*2と同様に、適法サイト認定団体は、日本の音楽や映像に関する主要な著作権者団体が共同で設立し、それらの著作物を使用していないことを保証する形で運営されることかと思われます。

認定適法サイトとなるためにはサイトの内容を認定団体に見てもらい、審査してもらう必要があったとします。とあるサイトの作者が、ある曲の楽譜を著作権法32条の引用として用いたり、ごくごく短い音を、著作物性のないものとして用いたりした*3とします。これを認定団体に提出した時に、認定団体が著作権者団体からなるとしたら、これらを認めずに著作権料の支払いを求め、支払わないのならば認定しない、という態度に出ることは考えられないでしょうか。サイト作者が適法だと思っても、認定団体が認めなければ、法律で定められた適正な利用であっても認定を受けられない事態になりうるのです。

著作権は何も手続きをしなくても発生し、しかもその保護範囲と期間が大きいことから、これまで様々なものを著作権の対象にする訴えが提起されてきました。先に挙げた雑誌の「休刊のあいさつ」のほか、契約書案の文面、数学の論文における方程式、「城」の定義、といったものが裁判で争われ、著作物性を否定されてきています。しかし認定団体が「これは引用ではないから著作権料を払わないと適法とは認めない」「一音であっても著作物性があるから著作権料を払わないと適法とは認めない」と言い出したとき、サイト開設者は他の作品の一部を使うことを一切あきらめて内容を変更するか、著作権料を払って認定を受けるか、認定を受けないで自身のみならず閲覧者をも裁判のリスクにさらすかの選択を迫られます。さらにうがった見方をすれば、認定団体を構成する団体に加盟していない作者が作った作品について、一部が他の作品と似ていることを理由に、適法と認めないような「圧力」をかける可能性も、全くの杞憂と笑い飛ばすことが出来るでしょうか*4

権利を持つ者が自己の利益を拡大する方向に主張を拡大していくのは、ある種当然のことですから、認定の権限が著作権者の団体から構成されていれば、そのような主張を行なうのが自然でしょう*5。認定団体に著作権者のみならず、著作物の利用者団体をも含める、という考え方もあり得ますが、著作権者が一定程度に限られるのに対して*6、著作物の利用者はすべての人間といってよく、その利益を代表する団体は法人としてはおそらく存在しません。

結果として、認定マークという絶大な力を手にした権利者団体の前に権利は際限なく拡大し、著作権料の支払いの代わりに手間と時間と費用のかかる裁判をしてでも権利を獲得したいという者が現れない限り、著作権法のもと、それが本当に著作権で保護されるべきものなのかの議論がされぬままなし崩しになっていく。適法サイトの認定制度を導入した結果、このような未来が到来する――あくまで思考実験ですが。

もちろん、必ずこのような未来が到来するというわけではありませんが、一つの可能性として当協会では提示しました。

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*2:著作権法第104条の2第1項に定める指定管理団体

*3:「イントロがベースドラムから始まる曲の、最初の一音の音色聞き比べ」といった企画であれば、著作物性が認められない可能性はあり得るでしょう。

*4:おりしも小委員会では、著作権法の規定を契約でオーバーライトできるかについても検討されている。

*5:JASRACの引用に対する考え方などが参考になるか。

*6:いまやインターネット利用の拡大もあって、創作者は増大しているから、この見方も必ずしも適当ではない。