ダウンロード違法化の動き 2007年12月24日 - 2008年1月8日 (2)

前回に引き続き、ダウンロード違法化に関する動きをご紹介します。なお、前回のエントリで着うたの利用状況調査に関連したエントリとして「監査とセキュリティの間」を取り上げましたが、これはファイル共有ソフト利用状況調査に関連するものでした。おわびして訂正のご報告をいたします。

MIAUの「失敗」を総括する動き

MIAUなどが先導した私的録音録画小委員会中間整理に対するパブリックコメントにおいてダウンロード違法化に反対する意見が多数であったにもかかわらず、小委員会でダウンロード違法化の方針が示された結果を受けて、切込隊長BLOGではMIAUの活動を「失敗」と位置づけて、その原因を分析するエントリを公開しています。bewaad institute@kasumigasekiでも、「失敗」とは位置づけていないものの、ダウンロード違法化に反対するあり方を「政治運動」と「イデオロギー運動」の2つに分類した上で、MIAUはおそらく政治運動として活動を開始したはずだが、結果としてイデオロギー運動としての賛同を多く集めてしまったため、政治運動としての落としどころである妥協をしづらい状況にあるのではないか、と指摘しています*1。また、雑記帳@tumblrには、ダウンロード違法化という問題に敏感な層とそれ以外の層とでは、大きな断絶があり、これを埋めるのは容易ではないという考察があります。地方民法テレビ局に勤める孝好氏も、MIAUの今後についてのエントリを発表し、権利者との歩み寄りのためには、「海賊」を肯定しているわけではないことを鮮明にすべきとし、個々人が「海賊と取引した」と表だって言ったりしないことが大切だとしています*2

これとは別に、ノンフィクション・ライターの松浦晋也氏は、初音ミクを使って作られた歌がJASRACに登録された際の著作者と着うた配信者との関係や、日本の月探査衛星「かぐや」から撮影された高解像度の月の表面画像が、海外では無償で公開されているのに国内ではそれらにアクセスできない状況などについて自身のブログで論じてきましたが、それに関連して、ダウンロード違法化に反対することを表明しました。また、JASRACの内部事情についても、10年近く前の情報としながらもエントリとして公開しています*3

JASRAC菅原常任理事インタビュー

12月26日、CNET Japanに、JASRACの常務理事である菅原瑞夫氏のインタビューが掲載されました。これは、ダウンロード違法化やニコニコ動画YouTubeといったインターネットサービスとの関連を中心に質問がなされたものです。

これに対して、インタビュー全体にわたってJASRACの利益追求姿勢が過剰に見られる点、それでいて権利者に分配金が入らない事態があるという質問に「協会の関知することではない」と答えた点、ニコニコ動画YouTubeに、現在の投稿をすべて削除しての再スタートを要求している点、創作者の権利を守るとしながら著作権侵害動画に4〜5人の人手を割くことを厭う点、いわゆるMAD動画を「切り貼り」と評した点などが多くの批判を受けています。

RIAAの無差別訴訟

アメリカで、日本のJASRACにあたるような活動をしているのが全米レコード協会 (RIAA)です。RIAAがすでに違法サイトからのダウンロードも違法とされているアメリカで、ダウンロードをしたと思われる相手に無差別に見える警告を送っているという事態は昨年からGIGAZINEなどで報告されてきましたが、12月30日のTechCrunchは、RIAAがそれら裁判の中で、購入したCDからリッピングしてiPodなどで持ち歩く行為も違法であると主張していることを報じています。仮にこれが認められれば、アメリカのほぼすべての音楽ユーザーがRIAAから訴訟を起こされるリスクを負うと、同記事では警鐘を鳴らしています。

パブリックコメント結果の発表

12月28日、官庁御用納めの日に「年内の公開」を予定していた文化庁文化審議会著作権分科会私的録音録画小委員会中間整理に対するパブリックコメントの結果が公開されました。公開にあたっては、これまで約7,500件としてきた意見の総数について、実際には8,720件であったとする訂正が文化庁からなされました。

ファイルはPDFファイルで22ファイル、計8.2メガにおよび、特に違法サイトからのダウンロードを違法化する件については606ページにわたって意見が掲載されています。なお、ファイルはおそらくMicrosoft Excelで編集されたと推測され、意見の内容がセルからはみ出してしまったために読むことができない部分が散見されます。

これについては、結果全体を見ての感想、自身が送った意見が最終的に反映されなかったことへの不満など、さまざまな意見があります。一方、意見を提出したのが団体である場合、その団体名が明記されることから、osakana blogドワンゴ風のはてで社団法人日本芸能実演家団体協議会・実演家著作隣接権センターについて、各論点についてどのような意見を出しているかをまとめてみる動きなどがあります。

現状を所与のものと受け入れて著作権を再構築すべきという考え方

ネット上の意見の中には、YouTubeニコニコ動画の流れはもはや止めることができないものであるから、もはやこれを合法とできるように著作権法そのものを変えるべきだ、とするものも存在します。中でも、山と生きるでは、自由にインターネット上にアップロードできるライセンスのあり方や、法制度のあり方などについても提案されています。しかし、ライセンスについては、福冨諭氏から、企業が使うのには良くても個人では使えないなどの指摘もあります。また、時期を同じくしてNIKKEI NETIT+PLUSには江口靖二氏が、時代の変化に伴って著作権のあり方を変化させるという考え方について言及した記事が掲載されています。

死ぬのは音楽か、音楽産業か、レコード産業か

12月30日に発表されたid:rmxtori氏のブログエントリは、はてなブックマークを中心に大きな反響を呼びました。インディーの音楽産業に連なる氏は、2007年を「音楽が売れなくなったことを、皆がはっきりと自覚した年」と指摘し、音楽が死んだ未来を想定して生きて行かなくてはいけないかもしれない、と結びました。

これに対して、ライターの柴那典氏はブログで2回にわたって言及し、音楽業界が下り坂であっても、音楽が無くなることは決してないし、CDの売上減は音楽の質の低下につながったりすることはない、と主張しました。

また、上記とは別にYAMDAS Projectyomoyomo氏は、海外アーティストのレコード業者を介在させない活動を取り上げたMTVとwiredの記事を挙げ、衰退しているのは音楽産業ではなくレコード産業であると指摘しました。

上記ブログで論じられるようにCDの売上が落ち込む中、音楽プロデューサーの藤原ヒロシ氏は、自身のブログで、氏の楽曲のうちJASRACに管理させていない曲については自由にコピーして使って良い、気に入ったらCDを購入したりダウンロードしたりしてほしい、と発表しました。

違法化賛成

ダウンロード違法化に賛成する意見も多くあります。ゲームのシナリオライターで、多数の商用・同人ゲームのシステムとして採用されているNScripterの作者でもある高橋直樹氏は、現在のダウンロード違法化に反対する意見に疑義を呈しています。特に、12月30日のエントリのコメント欄では、ダウンロード違法化による萎縮効果を特に重視するfer氏と高橋氏との間で、長い議論が交わされています。

また、切られお富!では、ダウンロード違法化について、著作物を無料で享受したいだけの者が、理論的な反対論の尻馬に乗っているのではないかと疑念を呈し、業界団体がクリエーターをないがしろにしているとしても、それが著作物を無許可でインターネットから享受する言い訳にはならないと指摘しています。

漫画原作者の土岐正造氏も、ダウンロード違法化のニュースを受けて、ダウンロード違法化反対論に疑義を呈しています。特に、12月28日のエントリでは、疑義を呈したエントリに対する反論のコメントの内容が具体性を欠いた感情的なものが大多数であったことを嘆いています。

直接的にダウンロード違法化に賛否を表明するものではありませんが、アニメ・ゲームの背景画像を制作する有限会社草薙の中座洋次社長は、動画サイトに無料のアップロードが万延すると、業界自体が新しいものを生み出すエネルギーを失っていくとし、個々人の道徳観を育てるしかないと発言しています。

その他

12月25日、ITProは情報処理推進機構 (IPA)が主催したシンポジウムで、内閣官房知的財産戦略推進事務局主査の井戸川義信氏が、検索エンジンを合法化するための著作権法改正など、現在の知的財産法を改正すべき点について論じたと報じました。

12月28日、デザインエクスチェンジは、黒澤明の監督した映画作品の著作権を50%取得したと発表しました。個人が著作者とされる映画作品については死後38年間著作権が継続しますので、これらの作品の著作権2036年まで継続するというのが一般的な見方ですが、同社は脚本を著作物と考えれば、著作権は死後50年間継続するので、保護期間は2048年までであると主張しています。権利者の権利の主張の拡大の例として、注目に値します。

12月29日、Baldanders.infoの荒川靖弘氏は、12月にみすず書房から出版された「〈海賊版〉の思想‐18世紀英国の永久コピーライト闘争」という書籍について触れています。

海外

海外でも、slashdotが日本でのダウンロード違法化問題を取り上げるなど、この問題についての話題が多少論じられるようになってきています。

知的財産権に関する論文

駒沢公園行政書士事務所日記によると、北海道大学の知的財産法に関する紀要に、同大学の田村善之教授の論文が掲載されており、その中に検索サイトにおけるスニペット(検索結果を抜粋したテキスト)、サムネイル、動画表示などについて論じられているそうです。また、ICHINOHE Blogなどでは、大阪大学の紀要「阪大法学」に本年度掲載された、京俊介氏の「著作権政策形成過程の分析―利益団体,審議会,官庁の行動による法改正メカニズムの説明―」という論文に注目が集まっています。

*1:ダウンロード違法化に反対する動きが一種のイデオロギー化して、先鋭化するのではないかという指摘についてはhttp://d.hatena.ne.jp/wanderingdj/20071227/1198733713も。

*2:「海賊」が何かは明らかにされていない。なお、http://d.hatena.ne.jp/pbh/20071228/1198817126では、アップロードされた物が違法であろうが無かろうが、それをダウンロードするのは当然の権利である、という、法が違法とされていない行為を単純に合法とする主張がなされている。

*3:JASRACの最近の変化として、生え抜きのJASRAC職員が理事長となった点を指摘したエントリに、http://d.hatena.ne.jp/bn2islander/20071228/1198848161