あらゆる知能犯を著作権法違反で処罰する法体系の可能性について

1月24日、京都府警がコンピュータウィルスを作成した者を著作権法違反で逮捕したと発表しました。

現行の刑法では、コンピュータウィルスの作成自体は罪となっていません。今回、コンピュータウィルスの作者は自ら作成したウィルスをwinnyを通じて他者にダウンロードさせ、実行したのは個々のユーザーであるため、電子計算機損壊等業務妨害*1の適用が行なえなかったものと思われます。そこで、当該ウィルスが実行時にアニメの画像等を表示させることが著作権法違反にあたるとして逮捕したものと推測されます。

さて、今回の場合、京都府警がウィルス作成者を逮捕しようと考えたきっかけは、ウィルスの作成自体にあるであろうということは、上記毎日新聞の記事からもうかがい知れます。しかし、本件については逮捕の容疑は著作権法違反であり、公判においても著作権法違反のみが問われることになることでしょう。当協会では先に、ダウンロード違法化と非親告罪化が行なわれれば、著作権法違反が軽犯罪法のように別件逮捕の道具として使われるのではないかという境真良氏の指摘を紹介しました。しかし、実際には2005年にYahoo!に似せたフィッシングサイトで不当にユーザー情報を手に入れた者、2006年にDIONの400万人の顧客情報を入手した者が、著作権法違反で立件されています。とくに、夢の国によると、前者のフィッシング事件においては、著作権法違反で公訴が提起され、地裁判決まで下っています*2

今回の事例も、京都府警はほかに立件できる罪名を見つけられないために、著作権法違反で逮捕したのですから、おそらく検察による公訴提起も著作権法違反を罪名として行なわれるでしょう。そこでは、純粋に著作権法違反の程度のみで刑罰が定まるのか、著作権法違反に付随するウィルス作成を加味して刑罰が定まるのかは注目が集まることでしょう。

情報漏洩やフィッシング詐欺、ウィルス作成という実際に罰したい事実があるのに、それを取り締まる法律がないので著作権法違反で取り締まりを行ない、罰則までをそれにより定めるというのは、別件逮捕を通り越して別件処罰であるとして、罪刑法定主義の上から強い批判が予想されるところです。しかし、今回京都府警がこのような措置をとり、公然か非公然かわからぬものの、逮捕ありきの前提で適用法律を探すという捜査手法をとったことは、今後の日本の法体系の大きな転換点を意味しているのかもしれません。

すなわち、現在の著作権法は、著作権を侵害した者に対して10年以下の懲役または1,000万円以下の罰金*3という強い罰則を持っています。今回、仮に先の不正指令電磁的記録作成等が法制化されていたとしても、その刑罰は3年以下の懲役または50万円以下の罰金に過ぎません。つまり、不正指令電磁的記録作成等に対する罰は、著作権法違反があれば完全にカバーできるのです。

ほとんどすべての知的犯罪は、その過程に何らかの著作権法違反を含み得ます。立法が時代の変化に対応できず後手に回りがちであるという批判はよくあります。しかし、著作権法違反の厳罰化は、ダウンロード違法化と非親告罪化を加えることにより、10年以下の懲役・1,000万円以下の罰金が適当とされるありとあらゆる知的犯罪にほぼ先回りができるという法体系に結実させることができるのです。今回の京都府警の逮捕発表は、その法体系の転換を内外に示すものなのかもしれません。

もちろん、以上は判明している事実から推論を重ねた、陰謀論に近いものであり、当然、実際にそうであると決まったわけではありません。しかし仮に、そのような考えのもと著作権を巡る法制が変化してきていると仮定するのであれば、ダウンロード違法化時代に違法なサイトを見極めることは、一層の重要性を持つことになるでしょう。当協会は、今後もダウンロード違法化についての研究を重ねて参ります。

*1:刑法第234条の2

*2:同エントリによると、ウィルス作成罪が成立していないのは、共謀罪と合わせた法案として国会に提出されているのも理由の一つであるという。

*3:もしくは併科