ダウンロード違法化の動き 2007年12月24日-2008年1月8日 (1)

前回以降のダウンロード違法化に関する動きについて、数回に分けてお伝えします。

日本レコード協会の違法着うたサイト調査結果

12月25日、社団法人日本レコード協会が、違法着うたサイトについての調査結果を公表しました。「違法着うたサイトの利用者が大幅に増加している」という内容になっています。

おりしも違法サイトからのダウンロードが違法化される方針が文化庁から示されているさなかであり、文化審議会著作権分科会私的録音録画小委員会日本レコード協会などから違法着うたサイトに対処したい考えが何度か示されていることから、違法着うたサイト禁止やむなしという声がいくつか上がっています*1。一方で、調査のしかたや報告書の内容に疑問を呈する見方がいくつか登場しました。まず、ブログP2Pとかその辺のお話heatwave氏は、調査対象が偏っている可能性を指摘した上で、調査報告書が減少を示している項目については過小な、増加を示している項目については過大な表現が用いられていてフェアではない、と指摘しました。

ファイル交換ソフト利用実態調査のフォローアップ

これに先立つ12月21日に、コンピュータソフトウェア著作権協会 (ACCS)日本レコード協会などが、ファイル交換ソフトの利用者が大幅に増加しているという調査結果を発表していましたが、これについてWinnyの稼働ノード数を2006年8月から継続的に調査している、産業技術総合研究所主任研究員でセキュリティ問題などの専門家である高木浩光氏は、自身の調査ではWinnyノードが漸減傾向を続けていること、ネットエージェント社調査結果でも同様の傾向にあることを挙げ、双方とも事実であるならば、(1)少しだけ使ってやめてしまう人が急増している、(2)入れ替わりが激しくなっている、といった原因があるはずで、それについて追加調査をすれば実際のところがわかるのではないかとし、実際にはてなで調査も行なったが確定的なことは言えないとしています。これに関連して、監査とセキュリティの間のAgiYukio氏は、調査方法が年によって異なっているために数字の比較には意味がないことについて指摘しています。

また、高木氏はダウンロード違法化について、権利者の保護に加えてWinnyなどによる情報漏洩を防ぎたい官庁の意向があるのではないかと推測したうえで、「ダウンロード違法化」がいわゆるストリーミングを除いたものならば、情報漏洩対策の効果は薄く、この観点からではなく純粋に著作権のあり方について議論すべきであるとの見解を発表しています。

緊急シンポジウム「ダウンロード違法化の是非を問う」開催

12月26日、ダウンロード違法化に反対の立場を表明しているインターネット先進ユーザーの会 (MIAU) がシンポジウム「ダウンロード違法化の是非を問う」を開催しました。シンポジウムの様子はUstreamで中継され、その後YouTubeおよびニコニコ動画に公開されています。

当協会でもその様子をお伝えしましたが、そのほかにもメディア*2や参加者など*3から多数の報告がインターネット上でなされています。

津田大介

パネリストの一人で私的録音録画小委員会委員の津田大介氏はシンポジウムでは小委員会の様子などについて発言していましたが、12月28日に掲載されたASCII.jpのインタビューに答え、国会の空転状況から、著作権法改正案は今国会に提案されない可能性があるとの見方を示しています。

小倉秀夫

弁護士の小倉秀夫氏はシンポジウムで法的側面からの議論を展開しましたが、その内容についてはてな匿名ダイアリーで「今回の法改正は刑事罰が科されないものであるのに、小倉氏は刑事罰があるかのように語っている」として、小倉氏の見解を初めとしたMIAUに疑問を投げかけたものがありましたが、同ダイアリー内で「小倉氏は将来的な刑事罰化を危惧するものであって、現状の改正案について理解していないわけではない」という反論がなされました。しかし一方で、小倉氏はそうでなくても今回の改正で刑事罰も科されるようになると理解している人も多数いるのではないかという指摘は残っています*4

小倉氏自身は、自身のブログでシンポジウムの資料を発表したうえで、「権利者は民事訴訟前の証拠保全手続を行なうことで、ほぼすべての利用者のプライバシーを知ることができる」という危惧を表明しました。また、これらは机上の理論ではなく、すでにソフトウェアの違法コピーの疑惑があるときなどに実行されていると主張しました。また、近年のJASRACの財務状況に注目し、JASRACの収入は減少しているが、この原因は違法なダウンロードにより適法な音楽CDなどの売上が減少したのではなく、適法な音楽配信サイトで音楽を購入する際にはCDのように十数曲をまとめて購入する必要が無く、好みの曲だけを購入できるためではないかとして、仮にそうだとしたらこれまで抱き合わせでしか音楽を購入できなかったのが適正な形に変化しているのではないかと指摘しています。

池田信夫

池田氏はシンポジウムで「ファイル共有があったとしてもそれによる権利者の経済的な得失はほぼプラスマイナスゼロである」という研究を紹介した上でプラスマイナスゼロであるならば、ユーザーの便益がある分ファイル共有は全体として利益になる、という主張を展開しました。また、著作権が他の知的財産法と一線を画す規定を行なっている点について、霞が関の他官庁も文化庁の方針を是としていないとして、文化庁と他官庁とが対立の構図にあると自身のブログで改めて論じています*5。ただし、これについてはmemorandumのbn2islander氏が疑問を呈しているほか、現役官僚(という設定でフィクションの)日記を書いているbranch氏も、池田氏の議論において不当な印象操作や事実に基づかない立論があると指摘しています。

斉藤賢爾氏

シンポジウムにおいて技術的視点からダウンロード違法化について語った斉藤賢爾氏については、その主張をメディアなどが正しく伝えていない、としてnovtan別館が改めて斉藤氏の主張について解説しています。

「わかりやすいキャッチコピー」

シンポジウムの最後に行なわれた質疑応答では、「『違法なものをダウンロードすることを違法にする』というロジックはわかりやすい。これに対してMIAUの立場を一言で説明するキャッチフレーズのようなものはないのか」という質問に対して、小寺信良氏が「ある種キャッチフレーズの勝利であり、対抗できる言葉をこちらも考えて行かなくてはならない」と発言していました。はてなハイクでこれを考えるキーワードが設定され、いくつかの案が投稿されています。

その他のMIAUに関連する動き、CNET Japanに掲載されたJASRAC常任理事菅原氏のインタビュー、28日に公開された私的録音録画小委員会パブリックコメント詳細などについては次回お伝えします。なお、文化庁パブリックコメントの結果を発表した28日には文化庁サイトに一時つながりにくい状況が発生したようですが、仮にこれがアクセスの集中であるならば、当協会が違法サイトであるとして警告しているサイトに、何らかの障害が発生するほど多数のアクセスが集中したことについて、当協会としては大変残念なことであると考えています。