日本レコード協会が制定したマークで識別できること、できないこと

昨日お伝えしたとおり、社団法人日本レコード協会は、レコード会社が許諾した正規の音楽配信を簡単に識別できるマークとして、エルマークというマークを運用開始したと伝えました。同時に、仮にこのマークの制定で、私的録音録画小委員会などで提案のあった「適法マーク」の役割が果たせると考えているとしたら、その考え方には大いに誤謬がある、という当協会の主張についてもお知らせしています。

Q マークがないサイトは全て違法配信サイトですか?
A このマークは、レコード会社との契約によって配信されているレコード(CD)音源や音楽ビデオなどに表示されるマークですので、それ以外のコンテンツは原則として対象となっておりません。また、レコード(CD)音源や音楽ビデオなどの配信サイトでもまだこれから対応するサイトがありますので、日本レコード協会では、このマークの利用範囲が広がるように関係者に働きかけを行なっていきます。

http://www.riaj.or.jp/shikibetsu/index.html

再掲しますが、マークの紹介ページにある上記の「よくあるご質問」は、マークの無いサイトはすべて違法配信サイトであるか否か、という問いに全く答えておらず、問答になっていません*1。さらに言えば、日本レコード協会は、この問いの前に、「このマークがあるサイトはすべて適法配信サイトなのか」という質問にこそ答えるべきなのではないでしょうか。

考えるまでもなく、日本レコード協会に関係する権利者の許諾を得ているからといって、そのサイトのすべての著作物について、適法配信であることを担保するものは何一つありません。このマークは、日本レコード協会に関係する権利という、世界中の著作者のうちごく限定された一部の権利について、その許諾を示すものでしか無いのです。もちろん、ごく限定された一部とはいえ、現在日本で商業的に流通する音楽関連コンテンツの中では大多数と言っていい割合を占めているでしょうから、このマークがあれば、そのコンテンツは「おおむね」正規の許諾を受けている、と識別できるでしょう。しかし、著作権法改正の議論において求められているのは、言うまでもなくすべての権利者の権利の保護であり、一部の権利者の保護ではありません。「おおむね」ではなく「完全に」許諾を得ていることの確認が求められる場面において、このマークの有無で識別できることは皆無に等しいと言えるでしょう。

追記

上記で指摘した点について、日本レコード協会のページに掲載されたQ&Aが修正されました。[id:illegal-site:20080426:p1]

*1:「サイト」と「コンテンツ」という射程が整理されていない、あるいは混同されているのではないのか、という指摘について「エルマーク」制度の運用を開始 - ほげげの戯言

正規音楽配信を識別するという目的の日本レコード協会が制定したマークについて

社団法人日本レコード協会は2月19日に、レコード会社が許諾した正規の音楽配信を簡単に識別できるマークとして、エルマークというマークを運用開始したと伝えました。

現時点で、moraなどのPC向けサイトのいくつかと、携帯電話向け音楽配信サイトのいくつかで、当該マークの掲載が確認されています。

日本レコード協会が、同法人の会員が権利を有する著作物についてその利用を許諾したサイトについて、その旨をわかりやすくするマークを制定し、その趣旨に賛同するサイトがそれを掲載することは、許諾の有無を分かりやすくするものであり、当協会ではマークの制定を歓迎します。ただし、当協会がこれまでに再三主張してきているとおり、あるサイトに掲載されているすべての著作物が適法であるかどうかということは、一団体が証明できるようなことではありません。利用者は、今回のマークが許諾の有無について一定の参考になるとしても、それは極めて限定的な意味しか持ち得ないことを、充分留意する必要があります。このことは、マークの説明の「よくある質問」においても、

Q マークがないサイトは全て違法配信サイトですか?
A このマークは、レコード会社との契約によって配信されているレコード(CD)音源や音楽ビデオなどに表示されるマークですので、それ以外のコンテンツは原則として対象となっておりません。また、レコード(CD)音源や音楽ビデオなどの配信サイトでもまだこれから対応するサイトがありますので、日本レコード協会では、このマークの利用範囲が広がるように関係者に働きかけを行なっていきます。

http://www.riaj.or.jp/shikibetsu/index.html

と、協会自身が認識しているところです*1

なお、今回のマークについてのプレスリリース下部には、携帯電話からマークの説明を見るためのアドレスが提示されていますが、当初掲載されていたhttp://www.rom-m.jp/shikibetsu/というURLは誤りで、http://www.rom-m.jp/i/shikibetsu/が、携帯電話からのアクセスとしては正しいものであることを指摘しておきます。また、その下部にあるQRコードは、読み取るとhttp://www.rom-m.jp/と読み取れるにもかかわらず、当該画像に設定されたリンク先は、http://www.mamo-on.jp/というサイトであり、かつこのサイトはPCからアクセスしても携帯電話専用のアクセスであることを示すメッセージが表示されるだけであり、リンク設定の意図について理解に苦しむ点があります。

いずれにせよ、携帯電話からも、このマークが掲載された事業者やサイトの一覧が確認できるものかと発行機関についてというページを見ると、「マークの発行を受けた配信サイト及び運営事業者の一覧は、パソコンにてご確認ください。」となっており、携帯電話からのみインターネットを利用する方には、携帯サイトにマークが表示されていても、それが真に日本レコード協会の認証を受けたマークなのかを確認する術がない状況にあります。このマークを実効性あるものにするためには、認証を受けたサイトの一覧PDFファイルの掲載で終えるのではなく、認証サイト検索システムなどを構築しなければ、マーク設置の目的は達成されないのではないかと危惧します。

以上挙げたとおり、日本レコード協会の試みには改善すべき点が多々あるものの、ある著作物が正当な許諾を得たものか否かをわかりやすくしようという目的そのものには、当協会は賛同の意を示すものであります。ただし、その目的の実現のためには、現状はあまりにも不充分であり、仮にこのマークの導入をもって、私的録音録画小委員会などで権利者が主張する「適法かどうかを識別するマーク」であると主張するのであれば、その主張は笑止千万であることも合わせて主張します。

追記

上記で指摘した点について、日本レコード協会のページに掲載されたQ&Aが修正されました。[id:illegal-site:20080426:p1]

*1:ところで、この問答が果たして質問に対する答えになっているのかについては、大きく疑問が残る。

京都府警の高度の著作権処理の手腕について

前回は、コンピュータウィルスの作成者が著作権法違反で逮捕された事件をもとに、著作権法が他の知的犯罪すべてを抑止する法律として機能しうる可能性についてお伝えしました。

一夜明け、各新聞等には該当するウィルスに感染したときの様子が掲載されています。通信社の記事にこの画像が掲載されていたこともあり、多くの地方紙等でもこの画面は掲載されています。

ウィルスは、アニメ「CLANNAD」の一場面の画像などが使われており、ACCSの発表によると、株式会社ポニーキャニオンほか3社が鑑定・告訴を行なったとされています。とすると、「京都府警提供」などとして新聞紙面等に掲載されているこの画像には著作権があります。新聞社等がこれらを掲載するのは、著作権法第41条に定める時事の事件の報道のための利用であると主張できる*1として、京都府警自身がこれらの著作物を複製して配布するのは、京都府警自身に報道の目的があるとは解しがたい*2ことから、著作権者に複製物の配布について許可を得ているものと考えられます。今回報道されている資料は、CLANNADの複製物のみならず、上記朝日新聞にはウィルスに感染したデスクトップ画面としてMicrosoft Windows XPスクリーンショットとおぼしき画面、そして何よりウィルス作成者自身が創作したとおぼしき文言が掲載されており、これらもすべて「京都府警提供」と付記されています。とすると、京都府警は、被害にあったCLANNAD著作権者のみならず、Windowsの壁紙の著作権を有していると思われるマイクロソフト社、さらにはウィルス作成者自身から、著作物の複製の頒布について極めて短期間で許可を得たと推測されます。なお、万が一これらの許可を得ることなく報道機関に複製を頒布していたとすれば、それは著作権法違反であり、罰せられるべきものであることは言うまでもありません。

このように短期間に著作権についての処理を行なうことができるノウハウが一般に広く知られるようになれば、違法なアップロードは激減し、わたしたちも安心してインターネットを利用することができるようになります。当協会では、安心できるインターネット環境構築のために、京都府警がこのノウハウを一般に公開することを強く期待します。

*1:ただし、このアニメの画像が「当該事件を構成し、又は当該事件の過程において見られ、若しくは聞かれる著作物」であるかどうかは完全に疑問がないわけではない。

*2:京都府警が行なう複製配布は府警の広報活動の一環ととらえることができ、広報の目的で他者の著作権に制限が加えられると解釈するのは法の安定性に重大な影響をもたらす。本件では府情報公開条例に基づいて公開したとも考えがたい。

あらゆる知能犯を著作権法違反で処罰する法体系の可能性について

1月24日、京都府警がコンピュータウィルスを作成した者を著作権法違反で逮捕したと発表しました。

現行の刑法では、コンピュータウィルスの作成自体は罪となっていません。今回、コンピュータウィルスの作者は自ら作成したウィルスをwinnyを通じて他者にダウンロードさせ、実行したのは個々のユーザーであるため、電子計算機損壊等業務妨害*1の適用が行なえなかったものと思われます。そこで、当該ウィルスが実行時にアニメの画像等を表示させることが著作権法違反にあたるとして逮捕したものと推測されます。

さて、今回の場合、京都府警がウィルス作成者を逮捕しようと考えたきっかけは、ウィルスの作成自体にあるであろうということは、上記毎日新聞の記事からもうかがい知れます。しかし、本件については逮捕の容疑は著作権法違反であり、公判においても著作権法違反のみが問われることになることでしょう。当協会では先に、ダウンロード違法化と非親告罪化が行なわれれば、著作権法違反が軽犯罪法のように別件逮捕の道具として使われるのではないかという境真良氏の指摘を紹介しました。しかし、実際には2005年にYahoo!に似せたフィッシングサイトで不当にユーザー情報を手に入れた者、2006年にDIONの400万人の顧客情報を入手した者が、著作権法違反で立件されています。とくに、夢の国によると、前者のフィッシング事件においては、著作権法違反で公訴が提起され、地裁判決まで下っています*2

今回の事例も、京都府警はほかに立件できる罪名を見つけられないために、著作権法違反で逮捕したのですから、おそらく検察による公訴提起も著作権法違反を罪名として行なわれるでしょう。そこでは、純粋に著作権法違反の程度のみで刑罰が定まるのか、著作権法違反に付随するウィルス作成を加味して刑罰が定まるのかは注目が集まることでしょう。

情報漏洩やフィッシング詐欺、ウィルス作成という実際に罰したい事実があるのに、それを取り締まる法律がないので著作権法違反で取り締まりを行ない、罰則までをそれにより定めるというのは、別件逮捕を通り越して別件処罰であるとして、罪刑法定主義の上から強い批判が予想されるところです。しかし、今回京都府警がこのような措置をとり、公然か非公然かわからぬものの、逮捕ありきの前提で適用法律を探すという捜査手法をとったことは、今後の日本の法体系の大きな転換点を意味しているのかもしれません。

すなわち、現在の著作権法は、著作権を侵害した者に対して10年以下の懲役または1,000万円以下の罰金*3という強い罰則を持っています。今回、仮に先の不正指令電磁的記録作成等が法制化されていたとしても、その刑罰は3年以下の懲役または50万円以下の罰金に過ぎません。つまり、不正指令電磁的記録作成等に対する罰は、著作権法違反があれば完全にカバーできるのです。

ほとんどすべての知的犯罪は、その過程に何らかの著作権法違反を含み得ます。立法が時代の変化に対応できず後手に回りがちであるという批判はよくあります。しかし、著作権法違反の厳罰化は、ダウンロード違法化と非親告罪化を加えることにより、10年以下の懲役・1,000万円以下の罰金が適当とされるありとあらゆる知的犯罪にほぼ先回りができるという法体系に結実させることができるのです。今回の京都府警の逮捕発表は、その法体系の転換を内外に示すものなのかもしれません。

もちろん、以上は判明している事実から推論を重ねた、陰謀論に近いものであり、当然、実際にそうであると決まったわけではありません。しかし仮に、そのような考えのもと著作権を巡る法制が変化してきていると仮定するのであれば、ダウンロード違法化時代に違法なサイトを見極めることは、一層の重要性を持つことになるでしょう。当協会は、今後もダウンロード違法化についての研究を重ねて参ります。

*1:刑法第234条の2

*2:同エントリによると、ウィルス作成罪が成立していないのは、共謀罪と合わせた法案として国会に提出されているのも理由の一つであるという。

*3:もしくは併科

私的録音録画補償金の堅持と対象範囲拡大を求める権利者団体の発表について

1月15日、日本音楽著作権協会 (JASRAC) など87の権利者団体が、私的録音録画補償金の堅持と対象範囲の拡大を主張する、「Culture First」と題した宣言を発表しました。ダウンロード違法化には直接関係ありませんが、私的複製とも関係する重要なトピックと判断し、これに関連した動きを紹介します。

まず、これに関するプレスリリースまたはそれらに類するものは、87の権利者団体とされるJASRACRIAJなどの公式サイトには一切存在せず、その内容は各種報道から推し量ることしかできませんが、それら報道によると、記者会見では「流通の拡大により、文化がないがしろにされている現状がある」「経済発展は文化の犠牲の上に立っていてはいけない」という趣旨のもと、iPodなどの携帯オーディオプレーヤー、パソコン、携帯電話、カーナビ、ブルーレイディスクHD DVDを利用したレコーダー、ハードディスクレコーダーなどに私的録音録画補償金の課金を求めるとともに、JEITAなどが主張する「DRMが普及すれば私的録音録画補償金は段階的に縮小するべき」という主張について「断じて許せない」と発言しているということです。この宣言は、各種IT系ニュースを配信するサイトのほか、GoogleニュースによるとTBSでも取り上げられたようです。

これに対して、多くのユーザーが意見を述べあう場として、2ちゃんねるスラッシュドット・ジャパンで議論が行なわれていますが、多くは権利者団体の主張こそが金目当てであり、詭弁であるといった批判が多数を占めています。

権利者団体の主張が、経済と文化を天秤にかけて文化の方が重要であるとした点について、文化を食い物にしたのはむしろ権利者団体ではないか、という批判は、このほか多数のブログで行なわれています。たとえば、無名の一知財制作ウォッチャーの独言では、補償金が文化の発展に貢献しないこと、補償金の配分が不透明なことを指摘した上で、このような状況で補償金を増額することなどあり得ない。さらには権利者団体がさも文化の担い手であるかのような顔をするのは許されない、と強く批判しています。

発表の中で、「経済至上主義を追求した結果、環境問題や医療問題が持ち上がっている」という発言があった点について、地球温暖化には疑問を示す立場が強く存在することを例に、文化のあり方についても根本的なところから見直すべきだという指摘が複数なされています。特に、MAL Antennaでは、私的複製が権利者の損害になるかについて、明確な答は一度も返ってきていない、と批判しています。

権利者団体の発表が、欧州のCulture Firstの運動と連動したものであるとされた点について、欧州ではDRMをフリーとして、代わりに保証金を得るように運動しているのだから、日本の権利者団体がDRMの普及と引き替えに補償金を縮小するというJEITAの主張について反対したのはおかしいではないか、という主張が泥府湾日誌でなされています。

また、権利者団体が主張をする際に掲げた「Culture First」というスローガンについて、文化を第一に考えていないのはむしろ権利者団体の側である、として、これを皮肉る発言も数多くあります。とくに、風のはてが掲載した、権利者団体のロゴを改変した画像とそれに派生して、文化を守るために権利者団体は一体どれだけのことをやってきたのだと指弾する主張は、はてなブックマークなどで多くの支持を集めています。Copy & Copyright diaryでは、どんな作品であっても、誰も享受しないのならばそれはもはや文化ではあり得ず、Culture Firstの前にあるのはUser Firstである、と述べています。BUILDING AND DEBUG ERRORでは、真に文化第一と考えるなら、「Creator First」を主張すべきだとしてロゴを発表しました。また、幸せの鐘が鳴り響き僕はただ悲しいふりをするには、権利者が補償金を求める姿勢を、クトゥルー神話の邪神にたとえた「Cthulhu First」というエントリがあります。

弁護士の小倉秀夫氏は、Culture Firstであるならば、禁止権を中心とするために情報の自由な流通を阻害する現在の著作権法のあり方が見直されるべきであって、その意味であればCulture Firstの理念に賛同するという見解を示しています*2。また、先述のUser Firstと同様、権利者団体は、創作者に対して消費者はそれを受け止めるだけだというように主張しているように見えるが、実際には作品は消費者に受け入れられることで文化となる、という指摘も行なっています。また、現在アメリカで脚本家団体が制作会社などに対して行なっているストライキを引き合いに出し、権利者団体が真に自らへの収益増を求めるべきは一般消費者ではなくテレビ局などではないのか、とも指摘しています。

一方で、権利者団体が「文化を守れ」という趣旨の発表をしたことについて、id:myfuna氏ははてなブックマークで、この問題の決着は、これまでこの問題に興味がなかった人をいかに自分たちの主張に賛同させるかという勝負に移っており、その点から見ればこの発表は非常に有効である、とコメントしました。これを受けて、POLAR BEAR BLOGの小林啓倫氏は、相手の議論に乗るのではなく、勝負に勝つべく戦略を考えないと権利者団体の主張が受け入れられるかもしれない、と述べました。同時に、この議論に一点だけ反論するならば、文化のあり方はその時々の技術によって変容してきたのだから、これまでのあり方をかたくなに守ることではなく、新たな時代にあった新たなあり方を考えることこそが文化を守ることにつながる、と主張しました。

テレビ局に勤務し、自ら創作も行なう孝好氏は、自身のブログニセモノの良心で、かねてから著作する側、著作物を利用する側双方の立場から発言を行なってきています。氏は、今回の権利者団体の主張について、私的録音録画補償金は権利者にごくわずかな額しか分配されておらず、これを守ることを主張することは権利者団体にとっても余り利益にならないのではないか、と指摘しました。これに対し、大野元久氏は実演家の佐々木康彦氏のブログエントリを紹介し、実演家には個々人に補償金が分配されるため、多少意味のある制度になっていると紹介しました*3

今回の発表に関連して、最も過激な意見としては、消費者の自由な選択に任せても、それに見合ったコンテンツは残り、それが文化となるはずだ、という見通しを積極的または消極的に認める見方がいくつかありました。とくに、ときに他のブログの全文転載を行なうなど、著作権について利用者に大きな自由を認めていると思われるネットの自由を求めてでは、守られる文化は衰退する、として「文化を守れ」というスローガンに反対しています。また、我が名は十庵の赤枕十庵氏は、モノとコンテンツとでコンテンツに重きが置かれていた流れが、再びモノの方に傾いており、そのうち、紙芝居を見せるときに紙芝居自体でなくあめ玉を販売してその対価を得ていたようなビジネスモデルを考えなくてはいけないかもしれない、という見方を表明しました。

*1:もとの2ちゃんねるでの議論はhttp://namidame.2ch.net/test/read.cgi/news/1200394904/

*2:これには、おそらくCulture Firstを発表した団体に対する皮肉が込められている。

*3:今回の発表をした団体について、87団体中実演家団体が多数を占めることと関係があるか。「Culture First」を唱えた87権利者団体のフォーメーション PE2HO

ダウンロード違法化の動き 2007年12月24日 - 2008年1月8日 (2)

前回に引き続き、ダウンロード違法化に関する動きをご紹介します。なお、前回のエントリで着うたの利用状況調査に関連したエントリとして「監査とセキュリティの間」を取り上げましたが、これはファイル共有ソフト利用状況調査に関連するものでした。おわびして訂正のご報告をいたします。

MIAUの「失敗」を総括する動き

MIAUなどが先導した私的録音録画小委員会中間整理に対するパブリックコメントにおいてダウンロード違法化に反対する意見が多数であったにもかかわらず、小委員会でダウンロード違法化の方針が示された結果を受けて、切込隊長BLOGではMIAUの活動を「失敗」と位置づけて、その原因を分析するエントリを公開しています。bewaad institute@kasumigasekiでも、「失敗」とは位置づけていないものの、ダウンロード違法化に反対するあり方を「政治運動」と「イデオロギー運動」の2つに分類した上で、MIAUはおそらく政治運動として活動を開始したはずだが、結果としてイデオロギー運動としての賛同を多く集めてしまったため、政治運動としての落としどころである妥協をしづらい状況にあるのではないか、と指摘しています*1。また、雑記帳@tumblrには、ダウンロード違法化という問題に敏感な層とそれ以外の層とでは、大きな断絶があり、これを埋めるのは容易ではないという考察があります。地方民法テレビ局に勤める孝好氏も、MIAUの今後についてのエントリを発表し、権利者との歩み寄りのためには、「海賊」を肯定しているわけではないことを鮮明にすべきとし、個々人が「海賊と取引した」と表だって言ったりしないことが大切だとしています*2

これとは別に、ノンフィクション・ライターの松浦晋也氏は、初音ミクを使って作られた歌がJASRACに登録された際の著作者と着うた配信者との関係や、日本の月探査衛星「かぐや」から撮影された高解像度の月の表面画像が、海外では無償で公開されているのに国内ではそれらにアクセスできない状況などについて自身のブログで論じてきましたが、それに関連して、ダウンロード違法化に反対することを表明しました。また、JASRACの内部事情についても、10年近く前の情報としながらもエントリとして公開しています*3

JASRAC菅原常任理事インタビュー

12月26日、CNET Japanに、JASRACの常務理事である菅原瑞夫氏のインタビューが掲載されました。これは、ダウンロード違法化やニコニコ動画YouTubeといったインターネットサービスとの関連を中心に質問がなされたものです。

これに対して、インタビュー全体にわたってJASRACの利益追求姿勢が過剰に見られる点、それでいて権利者に分配金が入らない事態があるという質問に「協会の関知することではない」と答えた点、ニコニコ動画YouTubeに、現在の投稿をすべて削除しての再スタートを要求している点、創作者の権利を守るとしながら著作権侵害動画に4〜5人の人手を割くことを厭う点、いわゆるMAD動画を「切り貼り」と評した点などが多くの批判を受けています。

RIAAの無差別訴訟

アメリカで、日本のJASRACにあたるような活動をしているのが全米レコード協会 (RIAA)です。RIAAがすでに違法サイトからのダウンロードも違法とされているアメリカで、ダウンロードをしたと思われる相手に無差別に見える警告を送っているという事態は昨年からGIGAZINEなどで報告されてきましたが、12月30日のTechCrunchは、RIAAがそれら裁判の中で、購入したCDからリッピングしてiPodなどで持ち歩く行為も違法であると主張していることを報じています。仮にこれが認められれば、アメリカのほぼすべての音楽ユーザーがRIAAから訴訟を起こされるリスクを負うと、同記事では警鐘を鳴らしています。

パブリックコメント結果の発表

12月28日、官庁御用納めの日に「年内の公開」を予定していた文化庁文化審議会著作権分科会私的録音録画小委員会中間整理に対するパブリックコメントの結果が公開されました。公開にあたっては、これまで約7,500件としてきた意見の総数について、実際には8,720件であったとする訂正が文化庁からなされました。

ファイルはPDFファイルで22ファイル、計8.2メガにおよび、特に違法サイトからのダウンロードを違法化する件については606ページにわたって意見が掲載されています。なお、ファイルはおそらくMicrosoft Excelで編集されたと推測され、意見の内容がセルからはみ出してしまったために読むことができない部分が散見されます。

これについては、結果全体を見ての感想、自身が送った意見が最終的に反映されなかったことへの不満など、さまざまな意見があります。一方、意見を提出したのが団体である場合、その団体名が明記されることから、osakana blogドワンゴ風のはてで社団法人日本芸能実演家団体協議会・実演家著作隣接権センターについて、各論点についてどのような意見を出しているかをまとめてみる動きなどがあります。

現状を所与のものと受け入れて著作権を再構築すべきという考え方

ネット上の意見の中には、YouTubeニコニコ動画の流れはもはや止めることができないものであるから、もはやこれを合法とできるように著作権法そのものを変えるべきだ、とするものも存在します。中でも、山と生きるでは、自由にインターネット上にアップロードできるライセンスのあり方や、法制度のあり方などについても提案されています。しかし、ライセンスについては、福冨諭氏から、企業が使うのには良くても個人では使えないなどの指摘もあります。また、時期を同じくしてNIKKEI NETIT+PLUSには江口靖二氏が、時代の変化に伴って著作権のあり方を変化させるという考え方について言及した記事が掲載されています。

死ぬのは音楽か、音楽産業か、レコード産業か

12月30日に発表されたid:rmxtori氏のブログエントリは、はてなブックマークを中心に大きな反響を呼びました。インディーの音楽産業に連なる氏は、2007年を「音楽が売れなくなったことを、皆がはっきりと自覚した年」と指摘し、音楽が死んだ未来を想定して生きて行かなくてはいけないかもしれない、と結びました。

これに対して、ライターの柴那典氏はブログで2回にわたって言及し、音楽業界が下り坂であっても、音楽が無くなることは決してないし、CDの売上減は音楽の質の低下につながったりすることはない、と主張しました。

また、上記とは別にYAMDAS Projectyomoyomo氏は、海外アーティストのレコード業者を介在させない活動を取り上げたMTVとwiredの記事を挙げ、衰退しているのは音楽産業ではなくレコード産業であると指摘しました。

上記ブログで論じられるようにCDの売上が落ち込む中、音楽プロデューサーの藤原ヒロシ氏は、自身のブログで、氏の楽曲のうちJASRACに管理させていない曲については自由にコピーして使って良い、気に入ったらCDを購入したりダウンロードしたりしてほしい、と発表しました。

違法化賛成

ダウンロード違法化に賛成する意見も多くあります。ゲームのシナリオライターで、多数の商用・同人ゲームのシステムとして採用されているNScripterの作者でもある高橋直樹氏は、現在のダウンロード違法化に反対する意見に疑義を呈しています。特に、12月30日のエントリのコメント欄では、ダウンロード違法化による萎縮効果を特に重視するfer氏と高橋氏との間で、長い議論が交わされています。

また、切られお富!では、ダウンロード違法化について、著作物を無料で享受したいだけの者が、理論的な反対論の尻馬に乗っているのではないかと疑念を呈し、業界団体がクリエーターをないがしろにしているとしても、それが著作物を無許可でインターネットから享受する言い訳にはならないと指摘しています。

漫画原作者の土岐正造氏も、ダウンロード違法化のニュースを受けて、ダウンロード違法化反対論に疑義を呈しています。特に、12月28日のエントリでは、疑義を呈したエントリに対する反論のコメントの内容が具体性を欠いた感情的なものが大多数であったことを嘆いています。

直接的にダウンロード違法化に賛否を表明するものではありませんが、アニメ・ゲームの背景画像を制作する有限会社草薙の中座洋次社長は、動画サイトに無料のアップロードが万延すると、業界自体が新しいものを生み出すエネルギーを失っていくとし、個々人の道徳観を育てるしかないと発言しています。

その他

12月25日、ITProは情報処理推進機構 (IPA)が主催したシンポジウムで、内閣官房知的財産戦略推進事務局主査の井戸川義信氏が、検索エンジンを合法化するための著作権法改正など、現在の知的財産法を改正すべき点について論じたと報じました。

12月28日、デザインエクスチェンジは、黒澤明の監督した映画作品の著作権を50%取得したと発表しました。個人が著作者とされる映画作品については死後38年間著作権が継続しますので、これらの作品の著作権2036年まで継続するというのが一般的な見方ですが、同社は脚本を著作物と考えれば、著作権は死後50年間継続するので、保護期間は2048年までであると主張しています。権利者の権利の主張の拡大の例として、注目に値します。

12月29日、Baldanders.infoの荒川靖弘氏は、12月にみすず書房から出版された「〈海賊版〉の思想‐18世紀英国の永久コピーライト闘争」という書籍について触れています。

海外

海外でも、slashdotが日本でのダウンロード違法化問題を取り上げるなど、この問題についての話題が多少論じられるようになってきています。

知的財産権に関する論文

駒沢公園行政書士事務所日記によると、北海道大学の知的財産法に関する紀要に、同大学の田村善之教授の論文が掲載されており、その中に検索サイトにおけるスニペット(検索結果を抜粋したテキスト)、サムネイル、動画表示などについて論じられているそうです。また、ICHINOHE Blogなどでは、大阪大学の紀要「阪大法学」に本年度掲載された、京俊介氏の「著作権政策形成過程の分析―利益団体,審議会,官庁の行動による法改正メカニズムの説明―」という論文に注目が集まっています。

*1:ダウンロード違法化に反対する動きが一種のイデオロギー化して、先鋭化するのではないかという指摘についてはhttp://d.hatena.ne.jp/wanderingdj/20071227/1198733713も。

*2:「海賊」が何かは明らかにされていない。なお、http://d.hatena.ne.jp/pbh/20071228/1198817126では、アップロードされた物が違法であろうが無かろうが、それをダウンロードするのは当然の権利である、という、法が違法とされていない行為を単純に合法とする主張がなされている。

*3:JASRACの最近の変化として、生え抜きのJASRAC職員が理事長となった点を指摘したエントリに、http://d.hatena.ne.jp/bn2islander/20071228/1198848161

シンポジウム「ダビング10について考える」

ダウンロード違法化と直接は関係しませんが、インターネット先進ユーザーの会 (MIAU)は1月16日にシンポジウム「ダビング10について考える」を開催します。ダビング10とは、総務省の検討委員会において検討されている、地上波デジタル放送を録画した場合、それを9回コピー、1回ムーブ(別の機器に移し替え)することを可能とする制限のことで、従来地上デジタルはコピー1回のみ許可(コピーワンス)とされてきたのに変わる制限です。アナログ放送時代に制限がなかったものを、不可避的に変更されるデジタル放送化に伴って制限を加えるやり方そのものに疑問を持つ見方から、一回録画すれば10の複製が作成可能になってしまうのは著作権の過剰な制限であるとする見方まで、ダビング10にはさまざまな見方が存在します。当日は、ダビング10の方針が定まる経緯から、ダビング10の是非に至るまで議論が行なわれる予定です。
参加申し込みは本日15日深夜0時までに延長されました。参加希望の方はお急ぎください。

なお、これに伴ってダビング10についてのアンケートが行なわれています。こちらの回答期限も1月15日深夜0時までです。